音楽著作権弁護士のブログ(仮)

音楽著作権、音楽ビジネスを中心業務とする弁護士が、ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

著作権譲渡契約(いわゆるMPA書式)

音楽ビジネスの世界では,著作権譲渡の契約をする場合に,FCA・MPAフォームというフォーマット(「MPA書式」と言われます)が広く利用されています。

 

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FCAは日本音楽作家団体協議会のことで、日本作詞家協会、日本作曲家協会、日本作編曲家協会など音楽作家の団体が参加している協議会です。また,MPAは日本音楽出版社協会のことで,音楽著作権を管理する音楽出版社の団体です。
 
要するに,作家側,音楽出版社側が協議した上で作成したフォーマットということで,広く利用されています。なお,音楽出版社は,現代においては広く音楽著作権の管理を行う会社ですが,その歴史において,楽譜の出版から始まったと言うこともあり,「出版」の文字が名残として残っています。 代表的な音楽出版社としては,フジパシフィックミュージック,日音などの放送局系の音楽出版社,ソニー・ミュージックパブリッシング,ユニバーサル・ミュージック・パブリッシングなどのレコード会社系の音楽出版社,アミューズなどのプロダクション系の音楽出版社があります。
  
MPA書式は,内容はなかなか難しいのですが,MPAのサイトで逐条解説が設けられていますので,内容を理解する上での参考になります。管理方法や,楽曲の創作に関わった作家全員と契約するか,個別に契約するかによって,合計8種類のフォーマットが用意されています。
 この契約は,作家が出版社に対して著作権を期限付で譲渡する代わりに,その楽曲の利用によって得た印税(一般的には,JASRACやNexToneといった著作権管理事業者から入金されます)の何割かが,音楽出版社を通じて作家に支払われることになります。MPA書式において重要なポイント(というか可変部分がそこしかないのですが)は,
  • 出版社と作家の取分を決めること
  • 楽曲の管理方法
  • 契約期間

となります。

 

(1)出版社と作家の取分を決めること

出版社と作家の取分については,昔は出版社取分が2分の1であることが多かったように思いますが,最近は3分の1とする例も多いように思います。残額が作家に分配されることになります。
 
なお,通常は,音楽出版社がJASRAC等の管理団体から著作権使用料の100%を受取り,それを再分配するのですが,JASRACのメンバーに限り,一部の著作権使用料(演奏権使用料といい,コンサートやカラオケ,放送などで作品が利用される際に発生する使用料)を音楽出版社を通さず 直接作家が受け取ることができます。
 
これは,CISACという音楽著作権管理団体の国際組織が定める「ゴールデン・ルール」によるもので,作家の権利保護を目的とするものです。現時点で,NexToneにはこのような直送の制度はありません。
 

(2) 楽曲の管理方法

楽曲の管理方法については,どの管理範囲をどの管理事業者(JASRAC,NexTone)に信託または委託するのか,あるいは,自ら管理するのかを決める必要があります。この規定が,JASRACからNexToneに権利を移転するために,個別に作家の承諾を取らなければならないことの根拠のひとつとされています。
 

(3)契約期間

契約期間については,昔はほとんどが著作権存続期間満了までという契約でしたので,何十年経っても昔結んだ著作権契約が解除できず,ほとんど業務を行っていない音楽出版社にも手数料を取られ続けざるを得ないという例もあります。
しかし,本来出版社が出版社取分として対価を得ることができるのは,音楽著作権の管理のほか,利用開発を行うことがタテマエになっている(書式第1条)ことも理由です。
第1条(目的) 本件作品の利用開発を図るために著作権管理を行うことを目的として、甲は、本件著作権を、以下に定める諸条項に従い、乙に対し独占的に譲渡します。
10年を超えて利用開発され続ける楽曲はほんの一握りの楽曲ですので,最近は契約期間を10年として,10年経過後には期間満了により契約を終了させ,作家が権利を取り戻す例もあります。
いずれにせよ,契約の存続期間を著作権存続期間中としてしまうと,契約を終了する術がかなり限られてしまいますので,一定の期間を設けることが望ましいでしょう。