音楽著作権弁護士のブログ(仮)

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共同原盤契約

1.共同事業契約書とは

共同原盤契約書とは,原盤の制作に関する契約書です。

原盤とは,いわゆるマスターのことをいい,これを複製することで,レコード,CDや音楽配信が行われます。

原盤を制作する(いわゆる「レコーディング」のこと)には,当然に費用がかかりますが,その費用を共同して負担することで,それぞれのリスクを減らそうというのが共同原盤契約になります。

多くの場合は,プロダクションやレコード会社との間で締結されます。各レコード会社がひな形を持っていて,多くの場合はそれを実情に合せて若干カスタムしたものが提示されることがほとんどです。

 

2.共同原盤契約に定める対価

共同原盤契約の仕組みは,プロダクションとレコード会社で,ある割合(多くは50%ずつ)にしたがって原盤制作費を負担すると定めるとともに,その原盤に関してプロダクションに発生した権利(制作費の50%を負担すれば,原盤に関する権利*1を,レコード会社に譲渡するというものです。

 

そして,その権利譲渡を受けて,レコード会社は原盤を利用してCDを製造・販売したり,音楽配信を行ったりする一方で,譲渡の対価として,プロダクション等に対して「原盤印税」を支払います。原盤印税は,CD等の小売価格*2の12%~16%程度となることが一般的で,その数字をベースに,原盤制作費の負担割合に応じて,プロダクションに対して原盤印税が支払われることになります。

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 (引用 音楽主義No.75 一般社団法人日本音楽制作者連盟)

また,原盤印税の調整として,プロモート印税やプロデュース印税の名目で,1~2%の印税を設定することもあります。国内メジャーを含む多くのメジャーのレコード会社は,契約書の修正に応じないことも少なくありませんが,決して交渉ができないと諦めるようなものではありませんので,プロダクションやアーティストは粘り強く交渉することで,少しでもよい条件の契約を目指すべきでしょう。

 

3.交渉力のあるアーティストは

なお,共同原盤契約にも,契約期間中に,一定の枚数のレコードのリリースがノルマとして定められており,契約期間中には他のレコード会社からレコードのリリースができないという,いわゆる「(レコード会社)専属実演家契約」の要素が含まれている契約と,単にあるレコードをリリースするための原盤制作を目的とする,ワンショットの契約があります。

前者の専属契約は,一定のレコードのリリースがノルマとして設定され,それを完遂するまで別のレコード会社からリリースができないという制限がありますが,レコード会社から一定の契約金が支払われる場合があるという点で,メリットもないとは言えません。アーティストによっては,次のリリースが保証されることがメリットになるというアーティストもあるでしょう。

ただし,交渉力のあるアーティストであれば,ワンショットの契約を締結することで,例えば,「今回のレコードのプロモーションなどに不満があれば別のレコード会社に移籍する」というカードを抜くこともできますので,専属性を持たないワンショット契約の締結交渉をすることも検討すべきでしょう。

4.共同原盤契約の契約交渉

具体的な共同原盤契約の中身については,印税率などの金銭的な条件の交渉と,その他の条件の交渉に大別されます。

(1) 金銭面の条件

金銭的な交渉においては,印税率の交渉のみならず,ジャケット代,配信控除,出荷控除(印税の計算対象数量)にも注意が必要です。出荷控除は,印税の計算対象数量が,レコード会社の中央倉庫(または営業所)から出荷される数量のXX%などとして定められることが一般的で,その数字は10~20%(計算対象数量としては80~90%)が一般的です。出荷控除が20%ということになると,10万枚売れたCD(3000円)も,印税の計算対象となるのは8万枚ということになり,仮に原盤印税が10%だった場合は,印税額は2400万となります。

出荷控除が10%であれば,計算対象は9万枚となり,印税額は2700万となり,300万円もの差額が出ることになります。出荷控除20%,原盤印税11%の場合は,印税額が2640万となりますから,印税率を1%上げるより,出荷控除を20%から10%に条件変更をしたほうがアーティスト・プロダクションサイドには有利となります。レコード会社の中には出荷控除20%を強硬に主張するところもありますが,その数字に根拠はありません。

(2) その他の条件

その他の点については,

  • 監査条項を設けることで,印税支払いの適性を担保すること,
  • 制作した原盤に収録された楽曲と同じ楽曲のレコーディングを制限する再録禁止期間を短縮する
  • レコーディング目的の実演自体を制限する実演禁止期間を短縮する

などの交渉を行うことが考えられますが,細かい交渉ポイントはたくさんあります。共同原盤契約に限りませんが,レコード会社との契約交渉は,経験値がないと「そんなもんか」と納得させられてしまいますので,注意が必要です。

*1:著作権法的には「レコード製作者の権利」になります。

*2:厳密には後述するジャケット代が引かれた金額が算定基準価格となります。共同原盤契約には,アーティストの実演収録の対価であるアーティスト印税の定めを置くことが一般的です。CD等の小売価格の1%とされるケースが多いですが,アーティストパワーによっては,5%程度にもなるケースもあります。