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音楽著作権弁護士のブログ(仮)

ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

「ListenRadio(リスラジ)」事件について

音楽ビジネス

今回は,音楽ビジネスの話ということで,「リスラジ事件」判決を紹介することにします。

東京地判平28.6.8 地位確認請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/947/085947_hanrei.pdf

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http://listenradio.jp/

 1.前提知識,訴訟に至る経緯

「リスラジ」の正式名称は「ListenRadio」で,「music.jp」などの音楽配信サービスを運営するMTIが提供しているインターネットラジオサービスです。このサービスでは,インターネットを通じて,日本全国のコミュニティFMラジオ局の放送を聴くことができます。

listenradio.jp

なお,「コミュニティ放送」とは,放送法施行規則別表第5(注)10において,

「コミュニティ放送」とは、一の市町村の一部の区域(当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接する場合は、その区域を併せた区域とし、当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、かつ、当該隣接する区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、住民のコミュニティとしての一体性が認められる場合には、その区域を併せた区域とする。)における需要に応えるための放送をいう。 

と定義されています。要するに,市町村レベルの地域に限って放送する,地域密着の小規模な放送局ということになります。その性質上,防災放送などに利用されることも期待されています。

このように,コミュニティFMを含むコミュニティ放送は,やや特殊な位置づけにあるといえます。

また,本件で被告となった「レコード協会(通称「レ協」「レコ協」)」は,レコード会社が組織する団体で,レ協の会員社が保有するレコード製作者の権利の一部を管理しています。

レコード協会の,管理委託契約約款においては,コミュニティ放送によるレコードの利用に関する権利も,レ協の管理対象となる旨が定められています。

(レコードの管理委託の範囲)
第3条 レコード管理委託者は、受託者に対し、本契約の期間中、その有するすべてのレコードの著作隣接権及び将来取得するすべてのレコードの著作隣接権について以下の各号に定める管理を委託し、受託者はこれを引き受ける。

(1) 省略

(2) 下記利用方法に関するレコードの送信可能化権(省略)及び複製権の管理
ア 次に掲げるレコードを録音した放送番組等(以下単に「番組」という。)を、放送と同時に自動公衆送信装置に入力する方法により送信可能化すること(ただし、受信先の記憶装置に複製させない形式に限る。)。
① 省略
② コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)
(以下省略)

このようなレ協の管理する権利に基づき,コミュニティFM局はレ協から,レ協の管理するレコードを録音した番組をインターネット配信することについて,許諾を受けていました。

しかし,リスラジのある機能を利用したレコードの利用について,レ協が異議を唱えました。問題視したのは,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルという機能です。このサービスは,リスラジのザッピング機能を使用することにより,各コミュニティFM局が流す音楽番組(1時間番組)だけを,次々とザッピング視聴することにより,24時間連続して配信されるという機能です。

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(判決より引用)

 

つまり,コミュニティFMの同時再送信,という体でありながら,24時間音楽だけを自動的に流すことができるような,いわばインターネットラジオサービスのような機能があったわけです。

レ協としては,このような利用を快く思わず,リスラジの「おすすめ番組まとめ」でザッピングされる番組の配信を停止しない限り,レコードの利用許諾と停止するよ,と求めたところ,コミュニティFM側がこれに反発して訴訟を提起したのが本件訴訟です。

普通は,利用の停止を求めるレ協側が楽曲使用の停止などを求めて提訴するのでしょうが,本件は停止を求められているコミュニティFM側が訴訟に打って出るという,いささか異例のものでした。

なお,この訴訟に先立ち,コミュニティFM側は,レコードの利用許諾についての契約上の地位を仮に定めることを求め,東京地裁に対して仮処分命令の申立てを行っていました*1

prtimes.jp

 2.結論

裁判所はコミュニティFM側の主張を退け,レ協の管理するレコードを録音した番組をインターネット配信することについての許諾契約は,レ協の更新拒絶により終了しているとしました。 

3.争点

判決において,争点は4つ挙げられていますが,実質的な争点は最初の争点だけであると言ってよいでしょう。

  • レ協の本件更新拒絶は,管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)といえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,信義則に反し,無効であるといえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,「共同の取引拒絶」(独禁法19条,2条9項1号イ又は同項6号イ,一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条,2条9項6号イ,一般指定2項)に該当するため,無効(民法90条)といえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条,2条9項6号イ,一般指定4項)に該当するため,無効(民法90条)といえるか

4.結論に至る理由

裁判所は,結論に至る理由としてさまざまな点を挙げていますが,簡単に言ってしまえば,形式的にはコミュニティFM番組の同時再送信として音楽を配信しているものの,実質的にはMTIが24時間音楽を配信するサービスを提供するために行われているものであることを理由としています。

具体的には,

  • コミュニティFM局の依頼によって制作された音楽番組であると言いつつ,放送番組データをMTIの管理する管理システムにだけ提供していること。
  • リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて本件各音楽番組を連続して視聴すると,例えば,Aの放送時間枠(午前11時から12時)の午前11時直前に地域店舗のCMを入れ,直前の放送時間枠を有している放送局Bは,放送時間枠(午前10時から午前11時まで)の午前11時まで音楽を流すように編成することで,Aコミュニティ放送局の放送地域に所在する地域店舗のCM(午前11時直前に放送されているもの)は放送されず,そのまま午前11時にA放送局に切り替わることによって,A放送局の地域店舗のCMが放送されないよう巧妙に編成されていること。
  • CSRA*2事務局が,宮崎サンシャインエフエムに対し,番組内容と放送日は合致することが重要であること,放送内容が異なった番組について番組枠料は減額とすること,今後は,データの運行については,MTIとCSRAにデータ運行が完了した段階で報告することなどを依頼し,これに対し,宮崎サンシャインエフエム従業員がCSRA事務局に宛てて謝罪し,今後は,MTIとCSRAにデータ運行完了を報告する旨約していることなどのやりとりがされたメールが存在していること。
  • 地域の災害に見舞われ,リスラジにおいて自己に割り当てられた放送枠の中で,地域で起こった災害情報を放送しなければならない際に,事前にCSRAに宛てて,災害に関するお知らせを放送することに理解を求めるメールを送り,今後はどういう対処をとるべきかなどの指示を求めている非営利活動法人ディ(あまみエフエム)のメールが存在していること*3

といった点を指摘し,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルにおいて配信される番組は,「ザッピング機能を使用して,音楽番組のみ継続して聴くことを希望する全国のユーザの需要に応えることを主要な目的とするMTIの発意によるMTIが責任を有するチャンネル」と結論付けています。

また,このように,これらの番組が「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組」に該当しない以上,コミュニティFMの配信利用は,レ協が管理の委託を受けている,「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組」を「放送と同時に自動公衆送信装置に入力する方法により送信可能化すること」の範囲外となり,そもそもレ協が利用許諾することができる権限を有する範囲外の利用であるとしています。

5.判決を受けて

コミュニティFM各社は判決を不服として控訴したようです。

prtimes.jp

 

本件訴訟は,訴訟当事者にこそなっていないものの,実際はMTIの代理戦争のように思われます。本来,音楽配信サービスを営むにあたっては,JASRACやNexToneといった著作権管理事業者と交渉することはもちろんですが,原盤権を保有するレーベル各社と交渉して,利用の対価について合意する必要があります。日本に音楽配信サービスがなかなか参入できないのは,原盤権を保有するレコードレーベルとの間で条件の合意に至るのが難しいというのが最大の原因です。

そのような状況において,この判決では,MTIがコミュニティFMの同時再送信を利用して,比較的低額な原盤使用料でラジオ型の音楽配信サービスと同等のサービスを実現しようとしたと解されたとしてもやむを得ない事情が指摘されています。

個人的に,こういった著作権法の抜け穴を探すのは知的探求としては興味深いのですが,本件ではレ協の約款や契約書の文言から,抜け穴ではないところを抜け穴として通っていると判断されたのでしょう。

なお,本件は,著作権等管理事業法16条の解釈について言及されていますが,同法の立法担当者の見解を踏襲しており,特段の目新しさはありません。

 

*1:リリースを見る限り,コミュニティFMによれば,レ協の主要メンバーであるソニー・ミュージック・エンタテインメントが「Music Unlimited」や「LINE MUSIC」などの音楽配信サービスを行っており,これらと競合するリスラジのサービスを潰しにきたのだ,と言いたいようです。

*2:コミュニティ放送局同士がアライアンスを組む任意団体

*3:災害に関する情報をコミュニティ放送局が放送することは,本来CSRAやMTIなどに承諾を求めるべき事項とはいえず,コミュニティ放送局の独自の判断で放送すべき事項であるにもかかわらずMTIなどに指示を仰ぐのは,番組制作が事実上MTIの管理下にあることを示しているということです。