音楽著作権弁護士のブログ(仮)

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原盤供給契約

以前のエントリでは、原盤に関する契約として、共同原盤契約について紹介しましたが、今回は、原盤供給契約に関する解説をします。 

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1 概要 ~そもそも原盤供給契約って

共同原盤契約は、原盤を共同して制作し、原盤に関して発生するレコード製作者の権利も共有になるのですが、通常は全てレコード会社に権利が譲渡されるという契約であることは以前のエントリでも説明したとおりです。
まず、原盤供給契約は、このような原盤の制作に関する契約とは異なり、既にある原盤をレコード会社等にライセンスする契約であるという意味で、その性質が異なっています。

共同原盤契約においては、その原盤に関する権利はレコード会社に移転してしまう一方で、原盤供給契約は単なるライセンスですので、レコード製作者の権利などの権利はライセンサーである原盤供給者に留保されたままとなっています。

また、共同原盤契約においては、権利譲渡の対価として原盤印税が支払われますが、原盤供給契約においては、ライセンス(利用許諾)の対価として、原盤印税が支払われます。原盤印税の相場としては、13~16%程度でしょうか。

原盤供給契約は、原盤を自らの費用で製作しなければならないという点がデメリットではありますが、制作費を負担するというリスクを負えば、それがヒットした場合には大きなリターンを得ることができます。
しかし、最近は、パッケージメディアの売上減少や、コンピュータの利用によって原盤制作費はかなり下がっており、1曲あたり数十万程度で原盤を制作することができますので、原盤制作費を負担するというデメリットはそれほど大きくなくなっているのが実情です。

以上のように、共同原盤契約において原盤制作費を50%ずつ負担するのは、映画やアニメなどの制作委員会方式にも似たリスク回避の側面がある一方で、原盤供給契約は、そのリスクを全て負担することにより、大きなリターンを得ることができます*1。したがって、ヒットが見込めるアーティストを抱えるプロダクションにおいては、自ら原盤制作費を負担し、レコード会社に原盤供給するという方法を取ることが多いです。

さらに、原盤供給契約には、ライセンスを終了できるというメリットがあります。ほとんどのレコード会社の契約書においては、その譲渡期間は、著作隣接権の存続期間満了までとされています。共同原盤契約において、譲渡期間を定めることができないというわけではないのですが、一般的に大手のレコード会社はその点の契約書の修正にほとんど応じないため、実質的に、共同原盤契約とする以上は、たとえ50%の制作費を負担して原盤を制作したとしても、その権利自体を取り戻すことはほとんど不可能と言えます。

一方で、原盤供給契約は単なるライセンスなので、契約期間さえ定めておけば、契約はその期間で終了し、原盤権を持っているプロダクション、アーティストとしては、より条件のよい他のレコード会社などからその原盤を使ったレコードをリリースすることができるようになります。

なお、たまに原盤供給契約にもかかわらず、契約期間中は原盤をレコード会社に期限付で譲渡するという条項をひっそりと提案してくるレコード会社もありますが、原盤を供給する側としてはそれに応じるメリットはなく、あくまでレコード会社の都合ということになります。

 ---------------------以下は愚痴になります。---------------------

これはかなりマニアックな話ではありますが、本来レコード製作者の権利に基づいて分配される商業用レコードの二次使用料などの隣接権使用料について、原盤供給者は受け取ることができません。なぜか、単に原盤を供給されている、ライセンシー側のレコード会社が全部持っていくという慣習になっています。この使用料は、レコード協会を通じて分配を受けることになるので、レコード協会に加盟していない単なる原盤供給者は分配を受けることができません。レコード協会加盟のレコード会社から、手数料を控除してでも分配してくれてもよさそうなものですが、一切分配しないのが慣習です。なお、分配しないことについて合理的な理由も不明です。

そもそも隣接権使用料の分配のシステムなどに問題があるのかもしれませんが、レコード会社中心の理解不可能なルールの1つです。

 

(参考:隣接権使用料の分配の流れ)

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(引用 一般社団法人日本音楽制作者連盟「音楽主義」)

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2 原盤供給契約の具体的な条項について

原盤供給契約においては、具体的には以下のような事項を定めます。

(1) 原盤の使用許諾範囲

共同原盤契約においてはレコード会社に全ての権利が譲渡されることが一般的ですので、使用範囲を制限するのはなかなか容易ではありません。しかし、原盤供給契約は単なるライセンスですので、例えば配信限定の利用とか、サブスクリプションサービスには許諾を出さないとか、さまざまな条件を付けやすいといえます。

(2) 原盤の制作費

原盤供給者が負担すると明記されます。
なお、忘れがちなのがジャケットの権利です。原盤供給契約においては、ジャケットをどちらが費用を負担して制作するのか、権利はどちらにあるのかはしっかりと決めておくようにしましょう。ちなみに、せっかく原盤供給契約であっても、ジャケットの権利がレコード会社にある場合は、契約終了後はそのジャケットを使えなくなってしまいますので*2、供給する側で製作して権利を保有しておくことが望ましいでしょう。

(3) 契約期間

原盤供給契約のキモとなる契約期間です。期間の設定もさまざまですが、3年程度の短期から10年といった長期にわたり設定されることもあります。原盤供給する側としては、いつでも契約を終了できること自体がメリットですから、期間は短い方がよいでしょう*3

また、原盤供給契約にはセルオフ期間が定められるケースがほとんどです。セルオフ期間とは、契約期間中に製造したCD等の在庫について、一定期間は販売することができるとする規定です。期間は半年程度が一般的でしょう。もちろん、この期間に販売されたCDからも印税が発生します。
なお、在庫がない配信についても配信停止手続にかかる期間として謎のセルオフ類似の猶予期間を設定されるケースもありますが、実際に中止されるかはさておき、配信の中止手続き自体は契約終了と同時にできるはずですので、「契約終了と同時に配信の中止手続きを行うこと」「実際に中止されたら通知すること」という2つの条件を要求しておきたいところです。

(4) 対価

印税率を定めます。前述のとおり、13~16%程度が多いものと思われます。配信の場合はこの倍程度でもおかしくはないでしょう。また、原盤供給側は、プロダクションなどのアーティストサイドであることも多いので、原盤印税と併せてアーティスト印税を支払うと定めることも多いです。要するに、まとめて支払っておくので、アーティストへの支払いはそっちでやっておいてね、ということです。
なお、印税をごまかされないために、監査条項は必ず規定しておきましょう。

 

*1:レコード会社に原盤供給をせず、プレスや流通だけを委託した場合には、さらに大きな利益を得ることができます。

*2:もちろん、ライセンス契約で許諾してもらえばいいのですが、対価を取られることがほとんどでしょう。

*3:昔と違い、いまではインディーズでも流通にそれほど支障はないですし、iTunesなどでの配信も簡単ですから、あまりメジャー流通にこだわる必要もないと言えます。