音楽著作権弁護士のブログ(仮)

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実演家の二次使用料

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今回はアーティスト向けの記事として、実演家の二次使用料などについて詳しく解説することにします。以前、アーティスト活動によって得られるお金についてのエントリ*1でも少し言及しましたが、今回はより詳しく説明してみたいと思います。

アーティストが音楽活動をするにあたっては、JASRACやNexToneから支払われる音楽著作権の使用料やライブのギャランティ、物販のロイヤルティなどに注目しがちですが、歩合制の場合には二次使用料なども貴重な収入源となります。

特に、自分で作詞作曲を行わず演奏だけを行うミュージシャンは、バンド内のお金の分配の仕方によってはまったく著作権使用料が入ってきませんので、貴重な収入になります*2

 

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(引用:著作権のお金の流れ | 音楽主義

以前にも紹介したとおり、実演家に支払われるアーティスト印税は、作詞家作曲家に支払われる著作権印税の6分の1程度になってしまうのが一般的ですので、作詞作曲をしないプレイヤーは必然的に収入が限られてくることになります*3

 

ここでいう「二次使用料など」とは、具体的には、 

  • 商業用レコード二次使用料
  • 貸レコード使用料
  • 私的録音補償金

などを言います。これ以外にも細かいものはあるのですが、主要な3つをそれぞれ説明していきます。

 

1 商業用レコード二次使用料

そもそも、著作権法においては、実演家にいわゆる放送権が付与されています(92条1項)。したがって、放送局は実演家の実演を許諾なく放送することはできません。「実演を放送する」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、「レコーディングに参加したCDが放送で流される」といった意味程度に考えておけばよいです。

しかし、その放送権は、「前条第1項に規定する権利(=録音権)を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演」については、放送権は及ばないこととされています(92条2項)。

つまり、実演家の承諾を得て制作された原盤には、放送権が及ばない、すなわち、「勝手に放送するな」と言えないこととなります。したがって、基本的にテレビ局やラジオ局は、実演家の許諾を得ずに、CD音源を個別の許諾を得ることなく自由に利用することができるというわけです*4

しかし、テレビ局は無償で利用できるわけではなく、実演家に二次使用料を支払わなければならない旨が法律で規定されています。これが「商業用レコード二次使用料」です(著作権法95条)。放送で使用された場合の二次使用料なので、「放送二次使用料」と呼ばれたりもします。

 

この放送二次使用料は、自分の実演が収録されたCDなどが放送された場合には、誰でも放送局から直接受け取れるというわけではなく、指定団体を経由して受け取る必要があります。

95条5項

第1項の二次使用料を受ける権利は、国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体(その連合体を含む。)でその同意を得て文化庁長官が指定するものがあるときは、当該団体によつてのみ行使することができる。

その指定団体が、CPRA(実演家著作隣接権センター)という団体です。

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(引用:http://www.cpra.jp/profile/

現状は、CPRAに直接実演家が委任することはできず、CPRAに権利を委任する権利委任団体を経由して権利を委任する必要があります。

その権利委任団体として、音事協(日本音楽事業者協会)、音制連(日本音楽制作者連盟)、PRE(映像実演権利者合同機構)、MPN(演奏家権利処理合同機構)などがあり、団体によってはさらに下位の団体が存在している場合があります。

www.jame.or.jp

www.fmp.or.jp

www.pre.or.jp

www.mpn.jp

どの団体でもほぼ同じように二次使用料を受け取れるのですが、音事協はいわゆる芸能系、音制連はニューミュージック系、PREは俳優、MPNはバックミュージシャンが中心など、それぞれ団体によってカラーが違います。

音事協、音制連、PREなどは、いわゆるプロダクションを通じて委任することが想定されていますが、MPNについては個人でも会員になることができますので、どの団体にも所属していないインディーズのアーティストの場合は、MPNやその下位団体に所属することで、二次使用料を受け取ることが可能になります。

放送で多く使用される楽曲は、必ずしもヒット曲ばかりというわけではなく、インスト楽曲などの背景音楽として使用されやすい楽曲が多数使用されており、いわゆるヒットチャートとは異なる傾向があると想像できます。歌番組がほとんどなくなった現状のテレビからすると、実はメジャーアーティスト以外のアーティストにこそ、二次使用料が重要なものとなる可能性もあるでしょう。

CRPAが徴収する放送二次使用料は2015年には50億を超えており、JASRACの放送分野の徴収額が300億程度であることからすれば規模は小さいですが、決して無視はできない金額になります*5

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(引用:http://www.cpra.jp/profile/result/

 

放送局がCPRAに支払った商業用レコード二次使用料は、JASRACの放送使用実績データに基づき分配されることになります。

なお、商業用レコード二次使用料は、実演家だけでなく、レコード製作者(いわば原盤権者)にも発生します。徴収された商業用レコード二次使用料は、まずレコード製作者と実演家分に分けられ、実演家分については前述のとおりCPRAを経由して分配され、レコード製作者分については、日本レコード協会とMPA(日本音楽出版社協会)に分配され、それぞれの会員社に分配されます。

 

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(引用:著作権のお金の流れ | 音楽主義

 

したがって、アーティストやプロダクションが自ら原盤を制作している場合には、アーティストやプロダクションが、実演家分だけでなくレコード製作者分も二次使用料を受け取る権利があるということになります。
しかし、レコード製作者分の二次使用料を100%受領するためには、レコ協とMPA両方の会員にならなければなりません。さらに、レコード製作者の権利を持っていたとしても、レコード会社に原盤供給をしていたり、流通委託をしている場合には、原盤権者に分配されず、供給先のレコード会社に二次使用料が分配されてしまいます。また、レコード会社の多くは、レコード製作者分の二次使用料を原盤権者であるアーティストやプロダクションに分配しませんので、ことレコード製作者の二次使用料の分配という局面においては、レコード協会加盟の大手レコード会社に極めて有利な構造になっていると言えます。

 

2 貸レコード使用料

貸レコード使用料は、2種類の使用料を総称したものです。1つは、期間経過商業用レコードの貸与報酬(同第95条の3第3項)であり、もう1つは、(期間経過前の)商業用レコードの貸与使用料です。

実演家には貸与権がありますので(95条の3第1項)、TSUTAYAやゲオなどのレンタルCDショップでCDを貸与する場合は、実演家の許諾が必要になります。しかし、著作権法に定める貸与権の規定をよく見てみると、

前項の規定は、最初に販売された日から起算して1月以上12月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード・・・の貸与による場合には、適用しない。

として、貸与権が及ぶ範囲が制限されています。なお、現在は、「一月以上十二月を超えない範囲内」とは、12か月とされています。

また、

商業用レコードの公衆への貸与を営業として行う者・・・は、期間経過商業用レコードの貸与により実演を公衆に提供した場合には、当該実演・・・に係る実演家に相当な額の報酬を支払わなければならない。

とも定められており、期間経過後の商業用レコードの貸与には、実演家に相当な額の支払を行わなければならない旨が規定されています。この点も放送における放送二次使用料と同様に、レンタルするなとは言えないけど、レンタルした場合は報酬を支払ってね、という制度になっています。

一方で、期間経過前の商業用レコードの貸与については、当然貸与権が働くことになりますので、個別に許諾を受けて、使用料を支払うことになります。
つまり、レコードの発売から1年間は貸与権の許諾が必要な期間であり、それ以後は報酬請求権に変化することになります。

現在は、邦盤アルバムについては発売日から3週間のレンタル禁止期間*6とする運用がなされているようです*7

もちろん、発売から1年間はレンタルを許諾しないこともできるので、CDの裏ジャケットには「レンタル禁止」と書かれていたり、「17.4.1 L X 再 17.9.30まで」といった表記(マルX=貸与許諾禁止表示*8)で、レンタル禁止を表示している場合もあります。

 

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(引用:著作権のお金の流れ | 音楽主義

これらの貸与報酬と貸与使用料は、CDVJ(日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合)という団体を経由して、各レンタル事業者が支払っています。CDVJが取りまとめた使用料は、商業用レコード二次使用料と同様にCPRAを通じて権利委任団体に分配され、そこからプロダクションやアーティストに分配されます。これらの報酬も、CPRAに権利を委任している権利委任団体に所属していなければ受け取ることはできません。

www.cdvnet.jp

ちなみに、貸レコード使用料についても、実演家分以外にレコード製作者分としての取分があり、レコ協を通じて権利者に分配されています。

 

3 私的録音補償金

著作権法においては、30条1項において私的使用のための複製という強い権利制限が設けられていますが、デジタル機器が発達した現代においては、劣化なくコピーができる結果、私的使用といえども、権利者の権利が少なからず制限されていることは言うまでもありません。そこで、著作権法において、私的使用目的であっても、デジタル方式の録音・録画機能を有する機器や記録メディアに録音・録画を行う場合には、権利者に対して補償金を支払うこととされています。

私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器・・・であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

この私的録音補償金は、ユーザーが直接負担するわけではなく、デジタル機器や記録メディアのメーカーが直接は負担をしています。私的録音補償金は、メーカーからsarah(私的録音録画補償金管理協会)という団体を通じてCPRA(実演家分)やJASRAC(著作権者分)、レコード協会(レコード製作者分)に分配され、他の使用料や報酬と同様に、権利委任団体を通じてプロダクションやアーティストに分配されます。

 

最後に 

以上のように、いわゆる二次使用料は、チャリンチャリンと何もしなくとも入ってくるお金ではありますが、まず入ってくるようにするための手続がいささかわかりにくいという点と、そもそもなんでそんなお金がもらえるのかわからないという点で、アーティストからはつい忘れられてしまうお金です。

しかし、一度手続をすればCDの音源がどこかで放送されたりレンタルされたりすることで、チャリンチャリンとお金が入ってくるわけですから、アーティストもきちんとした知識を持って、こういった報酬を取りっぱぐれることのないようになってくれればと思います。

また、前述のとおり、現在は文化庁に指定された団体からさらに複数の団体を経由して分配がなされるという実務になっています。当然ですが、各団体は管理に要する手数料を控除して分配します。こういった二次使用料は、本来は、誰が権利を持っている楽曲や原盤が使用されたかが特定できて、分配先が登録さえされていれば分配はできるはずですので、今後の技術の進歩によって、より簡易かつ低コストで、正確な分配がなされるような制度が構築されることを期待します。

 

 

*1:

gktojo.hatenablog.com

*2:メンバーの誰かが作詞作曲した場合でも、メンバー全員で著作権使用料を分配するケースもありますが、当然作詞作曲した特定のメンバーが総取りするケースが多いです。ドラマーも作詞作曲ができるようになったほうが絶対にいいです。

*3:メンバーに均等に給料のようなものを払う事務所も多く、収入が安定することもありますが、バンドなんていつ何時どうなるかわかりません。

*4:CD音源を利用する場合は、レコード製作者の権利も関わってきますが、レコード製作者には「放送権」がなく、実演家の権利と同様に二次使用料を支払うことで処理がされています。

*5:後述しますが、これにはレコード製作者分も含まれていますので、実演家分はこの半分です。

*6:洋盤については、シングル、アルバムともに1年間のレンタル禁止期間

*7:CDV-NET - レンタルと著作権

*8:レコード協会の規格で定められています。