音楽著作権弁護士のブログ(仮)

音楽著作権、音楽ビジネスを中心業務とする弁護士が、ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

Merlin(マーリン)日本事務所開設

先日、Merlinの日本事務所が開設されるとの報道がありました。

www.musicman.co.jp

また、Merlin本部のウェブサイトにおいても、日本事務所の開設についてのリリースがされています。

merlinnetwork.org

1.Merlinとはどんな団体なのか

Merlinは、2007年に設立された比較的歴史の浅い非営利の国際団体で、本部はアムステルダムにあります。

まず、Merlinとは何をしている団体なのでしょうか。

簡単にいうと、Merlinは原盤の権利についてレーベルから委託を受けて、音楽配信サービスにライセンスをする業務を行っている団体です。 

最近日本でもSpotifyがサービスを開始しましたが、昨年始まったAWAやLINE Musicとともに、日本でも多くのサブスクリプションサービスが展開されるようになりました。 Merlinはこれらの音楽配信サービスに対して、原盤のライセンスをし、使用料を徴収し、レーベルに分配しています。

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もちろん、個々のレーベルとそれらの音楽配信サービスとの間で直接契約を締結してライセンスすることも可能で、実際に直接契約しているレーベルも多数あります。 

Merlinはこのようなサービスを提供していますが、近年急成長を遂げており、実に240億円以上の使用料が既にMerlinを経由してレーベルに分配されています。Merlinには700以上のメンバーがいますが、それにはアグリゲーターなども含まれていますので、レーベル数で言えば20000を超えているとされています。

それでは、なぜMerlinを経由してライセンスをする必要があるのでしょうか。

 

2.Merlinは何のためにあるのか

YouTubeを始めとする世界的な音楽配信サービスは、圧倒的な交渉力を利用して、レーベルにとって極端に不利な契約を結ぼうとすることも少なくありませんでした。
特に、三大メジャーを除くインディーズレーベルはほとんど交渉力がない場合が多く、不利な契約をやむなく締結せざるを得ないという状況もありました。

以下は、主にAmazonの契約に関する記事ですが、音楽配信サービスにおいても類似した状況がありました。

nlab.itmedia.co.jp

このような状況で、インディーズレーベルが権利を持っている原盤を多数集めてバルクでライセンスをすることによって交渉力を高め、YouTubeを始めとした巨大な音楽配信サービスに、条件面で対抗していこうというのがMerlinの目的です。

音楽配信サービスとの交渉をMerlinが行うことにより、Merlinのメンバーはより好条件でのそのサービスに原盤を提供することができることになります。

Merlinと音楽配信サービスとの間の契約内容は、Merlinのメンバー以外には開示されていませんが、Merlinが急成長を遂げていることからも、インディーズレーベルが個別に交渉するより好条件となっていることは想像に難くありません。

また、単なる条件面でのメリットのみならず、Merlinが音楽配信サービスとの契約交渉を行ってくれるため、個別のサービスと契約交渉を行わなくてよいという、契約コストが削減できるというメリットもあります。

Merlinは、YouTubeやSpotifyを始めとした世界的にメジャーなサービスを始めとして、AWAといった日本のサービスにもライセンスを行っており、今後ライセンス先は増加していくものと思われます。

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3.日本事務所開設の意義

Merlinのアムステルダム本部以外の事務所開設は、ロンドン、ニューヨークに次いで、東京が3番目となります。東京事務所の代表は、日本の音楽業界を知り尽くしている谷口さんです。

日本が世界有数のインディーズ大国であることはすでに紹介したとおりです*1。ほとんどの海外発の音楽配信サービスは、英語での契約締結が必要であることからも、日本のインディーズレーベルが、海外の音楽配信サービスと交渉して、よい条件を勝ち取るのは相当な困難であるという状況でしたし、現時点でもそうでしょう。

そのような意味で、日本のレーベルがMerlinに権利委託を行うメリットは大きかったものと思われます。Merlinは、日本事務所の開設以前から日本のレーベルの権利委託を受け入れていますが、そのMerlinとの連絡や契約締結は英語で行う必要がありました。その意味では、契約締結時のみならず契約後のサポートに関しても、不安が残るという状況であったかもしれません。

しかし、日本窓口ができることにより、それらのハードルが解消され、日本のレーベルが持っている音源を、よりカジュアルに世界中で配信できるでしょう。

Merlinを通してライセンスを行えば、個別のハードな交渉を経ずとも、世界中でサービスを展開している音楽配信サービスで楽曲を配信することができます。音楽不況が叫ばれて久しいですが、世界中から薄く広く使用料を徴収することにより、アーティストが音楽活動をより充実させることも可能になるでしょう。また、これまで聴かれるチャンスすらなかった楽曲が、サブスクリプションサービスを通じて世界中に配信されることで、日本のアーティストの楽曲が異国の地で突然ヒットする、という可能性もゼロではないと思います。

このように、Merlinの日本事務所開設によるMerlinの周知は、多くのレーベルとアーティストにとって、大きなメリットとなると思われます。

*1:韓国もインディーズ大国ですので、Merlinがアジア地域を重視するのももっともでしょう。