音楽著作権弁護士のブログ(仮)

音楽著作権、音楽ビジネスを中心業務とする弁護士が、ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

SoundExchangeの役割

f:id:gktojo:20180406003657j:plain今回は、米国の著作権管理団体であるSoundExchangeについて説明してみたいと思います。

私も長きにわたり(今でも)、何となくはわかるけど、実際に細かく聞かれると自信がない分野の1つです*1

www.soundexchange.com

 

SoundExchangeは、アメリカの法律によって2003年に成立した非営利組織で、「Pandora Radio」のようなストリーミングによるウェブキャスティングサービスから使用料を徴収し、これをアーティスト等に分配するという業務を行っています。

これまで徴収・分配を開始して以降、5,000万ドルの分配を行っているとのことで、米国の音楽ビジネスにおいてはそれなりに重要な存在です。

SoundExchangeは、ウェブキャスティングサービスのライセンスを管理するための団体として、米国著作権使用料委員会から指定を受けています。日本法でいう指定団体業務*2のようなものでしょうか。

1.SoundExchangeが許諾する権利

SoundExchangeは、アメリカでのウェブキャスティング型のインターネット放送における原盤の利用に関する徴収・分配に特化した団体です。ウェブキャスティング型の音楽サービスの代表的な例は「Pandora Radio」「Live 365」などですが、日本ではあまりこういったウェブキャスティング型の音楽配信サービスは普及していません。

live365.com

ウェブキャスティング型というのは、ユーザーが聞きたい特定のトラックまたはアーティストを選択することはできず、あらかじめプログラムされたトラックの組み合わせが提供され、事前にユーザーに対してプレイリストが公開されることもないという、まさにラジオに近いサービスです。ラジオ放送が放送波ではなくインターネットを通じて提供されるもの、と考えておけばよいでしょう。

このような配信方式の限定に加え、SoundExchangeによる許諾の場合には、

  • 3時間以内に同じアーティストの楽曲を4曲以上送信することはできない(3トラックを超えて連続して送信することはできない)
  • 3時間以内に同じリスナーに対して、同じアルバムから3曲以上送信できない(2曲であっても、連続して送信できない)

といった制限も課されています。

SoundExchangeが特徴的なのは、JASRACやNexToneのような著作権管理事業者のように、自らが管理している楽曲のみを許諾するのではなく、SoundExchangeが取り扱う権利に関しては、登録の有無に関わらず、SoundExchangeが法律上定められたレートで強制的に許諾をするという点です。これを法定使用許諾(statutory licenses)といいます。
強制的に許諾されるという点では、日本の著作権法における報酬請求権に近い考え方と言えるかもしれません。

ただ、権利者と利用者との間での直接交渉が禁止されるわけではなく、SoundExchangeを経由せず、直接許諾を得ることも可能です。


このように、SoundExchangeは非常に限定された利用に関する許諾を取り扱う機関であることから、作詞・作曲についての権利は、ASCAP、BMI、SESACなどの著作権管理団体との間で権利処理する必要がありますし*3、ウェブキャスティング型ではないインターネット配信(ダウンロード型、オンデマンド型)については、権利者と直接交渉が必要になります。

 

【結局SoundExchangeは何の権利を許諾しているのか?】

一部では、SoundExchangeが、原盤権の集中管理団体であるとか、原盤権と出版権を一括して処理できる管理団体であるなどと説明される場合もありますが、必ずしも正確ではありません。

具体的には、米国著作権法114条において、一定の利用が法定使用許諾(statutory licenses)の対象となる旨が規定されています。なお、114条に定める使用のために必要な複製も、112条によって法定使用許諾の対象とされています。

 

SoundExchangeが許諾する権利を日本の支分権に当てはめて考えることはなかなか難しい作業になります*4

米国には従来「隣接権」という考え方が存在せず、いわゆる「実演家の権利」「レコード製作者の権利」として1対1で比較することができないためです。とはいえ、米国でも、実演家やレコード製作者の立場にある者の権利を全く保護していないというわけではなく、著作物の「著作者」としての保護を受けると考えられています。つまり、「実演家」も「レコード製作者」も、「著作者」として保護されることになります。

条文を見るとわかりやすいのですが、著作権の対象となるものが列記されている102条においては、言語著作物、音楽著作物、建築の著作物などに並んで、「録音物(sound recordings)」が記載されています。

以下の106条は、権利の内容を列記したものですが、

第106条 著作権のある著作物に対する排他的権利
第107条ないし第122条を条件として、本編に基づき著作権を保有する者は、以下に掲げる行為を行いまたこれを許諾する排他的権利を有する。

(1)~(3) 省略

(4) 言語、音楽、演劇および舞踊の著作物、無言劇、ならびに映画その他の視聴覚著作物の場合、著作権のある著作物を公に実演すること。
(4) in the case of literary, musical, dramatic, and choreographic works, pantomimes, and motion pictures and other audiovisual works, to perform the copyrighted work publicly;

(5) 省略

(6) 録音物の場合、著作権のある著作物をデジタル音声送信により公に実演すること。
(6) in the case of sound recordings, to perform the copyrighted work publicly by means of a digital audio transmission.

条文をみてわかるとおり、著作権には「公の実演(right to perform publicly)」を行う権利が含まれますが、録音物に関しては、「デジタル音声送信」の方法による公の実演に限定されています。

「公の実演(right to perform publicly)」も、日本の著作権法で言う「実演」とは異なる概念で放送や送信などの概念を含むものとなっています。

著作物を「実演する」とは、直接または何らかの装置もしくはプロセスを使用して、著作物を朗読、表現、演奏、舞踊または上演することをいい、映画その他の視聴覚著作物の場合には、映像を連続して見せること、または映像に伴う音声を聞かせることをいう(101条)。


これらの規定からすると、日本でいう実演家やレコード製作者に相当する立場の者が持つ「公の実演」に関する権利は、日本法で言う放送・有線放送権(92条)および送信可能化権(92条の2、96条の2)と対応すると言えるでしょう。

したがって、SoundExchangeがどの権利を強制許諾しているかを日本法に照らして考えれば、実演家とレコード製作者の送信可能化権、ということになるものと思われます。


2.SoundExchangeによるロイヤルティの徴収

法定ライセンスの料率(statutory rates)および条件を決定は、3名の著作権使用料裁判官(Copyright Royalty Judges)で構成される、法律上設置された著作権使用料委員会(Copyright Royalty Board)によって行われます。一般には、音楽サービス提供者とSoundExchangeが料金および条件を交渉した上で、著作権使用料委員会に合意内容を提示します。この合意が裁判官によって採択された場合、同様の立場にある当事者は、その合意にオプトインすることが可能となります。交渉をしなかった音楽サービス事業者の場合は、著作権使用料を設定するための仲裁を行うことを著作権使用料裁判官に求めることができます。

なお、料率等については、以下のウェブサイトで公開されています。

www.crb.gov


3.SoundExchangeが徴収したロイヤルティの分配

SoundExchangeが徴収したロイヤルティの半分はいわゆるレコード製作者に分配され、残りの50%は実演家に分配されます*5

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これらの分配は、SoundExchangeから許諾を受けている音楽サービス事業者からの再生報告に基づき分配されています。なお、SoundExchangeの手数料は会員以外には明らかではありませんが、5%以下と言われています。

聞いた話では、SoundExchangeに登録のないアーティスト、原盤については、ある程度の期間は分配せずにプールしておくようですが、最終的にはメンバーの中で分配してしまうということのようです。その意味では、早くメンバーになったほうが有利だと言えます。


また、SoundExchangeは、米国以外の20の管理事業者と国際協定を結んでいます。したがって、それらの米国以外の国で原盤が使用された場合でも、ロイヤルティが各国の管理事業者で徴収され、それがSoundExchangeに送金され、最終的にアーティストやレコード製作者に分配されることになっています。また、その逆も然りで、SoundExchangeが徴収した米国以外の原盤についての対価も、協定を結んでいる日本のレコード協会やCPRAを通じて、日本の権利者に分配されることになります。


4.SoundExchangeと新しい音楽の収益モデル

このポストに関連して、2015年の記事で少し古いですが、示唆に富む記事ですのでご紹介します。

榎本幹朗「アメリカで伸びるストリーミング売上から学ぶ」(CPRA news 76号掲載)

 

Pandoraのようなラジオ型ストリーミングサービスは、日本ではほとんど利用されていませんが、米国においては、大きなシェアを占めています。

記事が書かれた2015年当時よりはラジオ型ストリーミングの収益割合は下がっていますが、これは有料ストリーミングサービスの成長が著しいためであり、ラジオ型ストリーミング自体は現在でも成長を続けています。

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https://www.riaa.com/wp-content/uploads/2017/09/RIAA-Mid-Year-2017-News-and-Notes2.pdf

 

Pandoraは、広告付きの無料のサブスクリプションモデルが提供されており、多くのユーザーは無料の広告付きプランを選択しています。有料課金のサブスクリプションサービス(AppleMusic、Spotifyなど)は日本でも普及しつつありますが、若年層を中心に音楽にお金をかける傾向がどんどん低下していることからすれば、このような広告モデルによる収益を獲得することも、音楽業界にとっては重要なものと思われます*6

また、ラジオ型サービスには、オンデマンド型サービスにはないよさがあります。それは、普段私たちが自分で選ぶことのないアーティストの楽曲を発見させてくれるという点です。Pandoraは、楽曲の人気とは関係なく、楽曲の性質とユーザーの嗜好をもとにプレイリストを作成するため、著名なアーティストからマイナーなアーティストまでさまざまなアーティストの楽曲、しかも気に入る可能性が高い楽曲を知ることができます。

このような、ユーザーに新たな音楽の発見の機会を提供するというメリットのみならず、多くのアーティストが金銭的に還元を受けられるという大きなメリットもあります。音楽ビジネスの収益は、一部のトップアーティストに集中しがちですが、Pandoraのようなラジオ型ストリーミングサービスが存在することにより、比較的広い範囲のアーティストが金銭的に潤い、新たな音楽が再生産される土壌が育まれることになるでしょう。

 

少し脱線しましたが、SoundExchangeは単なる管理団体として存在するのみならず、このようなラジオ型ストリーミングサービスを容易にすることにより、米国の音楽文化の発展に寄与していると言っても過言ではないのではないでしょうか。

 

 

*1:このあたりの実務はなかなか経験するチャンスがありません。

*2:例えば、放送二次使用料などについて、実演家分は一般社団法人日本芸能実演家団体協議会(CPRA)が、レコード製作者分については一般社団法人日本レコード協会が指定されています。

*3:後述するとおり、SoundExchangeでは作詞家・作曲家の権利は許諾の範囲外となります。

*4:私も米国で著作権法を学んだわけではないので、内容にうそ・大げさ・間違いがあれば是非コメントや参考資料のご提示をお願いします。

*5:50%の中で、45%はフィーチャード・アーティストに、残りの5%がノンフィーチャード・アーティストに分配されます。ノンフィーチャード・アーティストとは、いわゆるレコーディング・ミュージシャン、スタジオ・ミュージシャンをいいます。

*6:日本でも、有料サブスクリプションモデルより、YouTubeで無料で音楽を聴く機会が圧倒的に多いと思われます。