音楽著作権弁護士のブログ(仮)

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アーティストが契約を結ぶ前に知っておくべきポイント

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ライブハウスなどで活動をしているバンドマンには、インディーズ志向が広まった現在においても、「メジャーデビュー」を目標に掲げているバンドマンも多いのではないでしょうか。

 1.「メジャー」とは

そもそも、「メジャー」とは何でしょうか。これは、日本と日本以外の国では少し意味が違っています。「メジャーレーベル」は、シェアの大きなレコード会社を指しますが、世界的には、ユニバーサル、ソニー、ワーナーを三大メジャー*1といい、これ以外は全てインディーズと認識されています。

 一方で、日本では、一般社団法人日本レコード協会に加盟しているレコード会社を「メジャー」と呼んでいます。したがって、日本ではエイベックスも、トイズも、コロムビアも「メジャー」ですが、世界的には、「インディーズ」であり、強いて言えば「ローカルメジャー」なわけです*2

 一般的に、これらの「メジャー」レコード会社と契約すると、全国各地に広く流通されることになるため、今までは「メジャーデビュー」指向が強かったのかもしれません*3

 

2.アーティストの「契約」

さて、いざデビューとなると、アーティストはレコード会社やプロダクションと契約を締結することが一般的です。また、デビューまで至らずとも、育成契約などの名目で、レコード会社やプロダクションが契約書を提示してくることがあります*4

 多くの若いアーティストは、「契約」という言葉に舞い上がって、専属料や育成金がいくらもらえるのかだけ確認して、その他の中身は何でもいいからサインしてしまうのではないでしょうか。年齢的にも、知識的にも、ここをこうしてくれ、とは言い難い雰囲気があると思います。

 もちろん、ワガママが通るトップクラスのアーティストではないわけですから、弁護士を間に立てて、あまりにも過剰に、ここをこうしてくれ、こういう条件はイヤだ、などと契約交渉をしようものなら、「使いにくい」「面倒」という印象を持たれることになってしまい、「それじゃもういいです」と契約すら流れてしまいかねません。

 新人アーティストの契約は、交渉ができないことが多いですが、少なくとも「契約を終わらせることができるか」という点、つまり契約期間と契約の終了方法については確認しておくとよいでしょう。これは、契約条件が多少マズくても、ある程度の期間で終了させることができれば、アーティストが力をつけてきた場合に新たに条件の変更など、契約交渉のチャンスが得られるからです。

(1)ポイントその1 契約期間

契約期間について定めた条項はいくつかあるのが一般的ですが、まず1点目は、契約期間がいつからいつまでかを確認します。例えば、2016年●月●日から1年間、とか、2016年●月●日〜2017年●月●日まで、と具体的に記載されています。1年間や2年間であればまぁ妥当という感じもしますが、5年以上になってくると、本当にその5年間をその条件でそのレコード会社やプロダクションと過ごしてよいのか、よく検討する必要があるでしょう。

例えば、18歳のアイドルが5年契約をする場合、18-23歳という、アイドルとしては非常に重要な時間をその契約のもとで過ごすことになります。1年契約であれば、この事務所やレーベルはマズイなと思った場合に、早期に契約を終了させることができます*5

また、契約書によっては、仮にアーティスト側から契約の解除を希望した場合であっても、プロダクション等の裁量により、1回だけ契約を延長できると定められている場合もあります。この条項では、当初の契約期間と同じ期間だけ延長できると定められている場合が多いのですが、仮に5年契約の契約書であった場合には、この契約書にサインしてしまえば、延長分と併せて10年間は契約を終了させることができません。条件変更もできない場合も多いので、アーティストのアーティスト生命を左右する恐ろしい条項の1つです。

以上のように、契約期間については非常に重要ですので、最低でもその点は確認、交渉をすべきでしょう。

 (2)ポイントその2 商標について

もう1点、注意を要するのは、商標についてです。

プロダクションなどがアーティストと契約する際に、契約書に、バンド名や芸名について商標を取得することに同意するよう求めたり、商標取得の同意書にサインさせたりする場合があります。

仮にプロダクションがバンド名について商標を取得し、バンドがそのプロダクションを円満に離れられれば問題ないですが、仮に少々揉めて事務所を離れた場合には、バンドの活動が制限される可能性があります*6

バンドにとって、バンド名の変更は、今まで積み上げてきたイメージや人気を失いかねないものですから、バンド名やユニット名を自由に利用できるということは極めて重要です。

 したがって、商標に関する事項が契約書に含まれていたり、商標に関する同意書を求められた場合には、安易にサインしないように注意すべきです。

 

 

*1:2013年にEMIがユニバーサルに吸収合併されたことにより、四大メジャーが三大メジャーになりました。

*2:さらに言えば、日本のSMEはソニーの子会社で、米国のSMEとは資本関係がないので、日本のSMEも「ローカルメジャー」と言っていいかもしれません

*3:もちろん、クリエイティヴ面でのアドバンテージがあるということも一因でしょう

*4:契約書を作らない場合もありますが、そのほうがアーティストにとっては契約を解除しやすいのでラッキーです。プロダクションなどの立場からすれば、契約書面を作成しないのではリスクが高すぎるでしょう。

*5:逆に、ライトな育成契約のような場合には、契約期間が1年だけで延長規定がなく、芽がないと判断された場合には、プロダクション側からあっさり契約を終了させられる場合もあります。

*6:バンド活動自体ができなくなるわけではありませんが、グッズ販売という現代のバンド活動に不可欠の活動が制限される可能性があります。