前回のエントリからだいぶ間が空いてしまいました。
このエントリではアーティストとお金の関係について整理していきます。
アーティストがその活動からどうやって対価を得ていくかについては,いろいろなパターンがありますが,アーティストにはどのような権利があって,それについてどんな対価が発生するのかを理解することが重要です。
まず,アーティストがその活動の対価を得る方法は,大きく2つに分けられます。
1つは,事務所から固定の専属料の支払いを受ける方法,もう1つは,さまざまな活動に応じて歩合制で対価の支払いを受ける方法です。また,これらを組み合わせた,固定給+歩合制,というパターンもあります。
アーティストが事務所を通さず自分で活動する場合は,歩合制の割合が100%になると考えてください。
1 固定給
固定給は,新人バンドなどに多いパターンです。新人のうちは,歩合制にしてしまうと,月々の収入が安定しないため,生活が苦しくなってしまう場合があります。
そのような場合に,事務所がリスクをとって,一定の金銭を支払うのがこのパターンです。契約期間中は,毎月の収入が保証されることになりますので,生活のプランが立てやすく,金銭面でのプレッシャーが少ないというメリットがありますが,その一方で,バンド活動による収入が伸びているのか,下がっているのかがわからず,活動方針をどう定めてよいかわかりにくくなるというデメリットもあります。もちろん,売れてきたバンドなどの場合は,歩合にした方が純粋に手元に入る金額が大きくなるという場合もありますので,それもデメリットと言えます。
固定給の場合は,2で述べるようなアーティストの活動により得られた金銭がその原資となることが多いです。その他,レコード会社などから支払われる育成金が原資となる場合もあります。いずれにせよ,固定給を支払うにも原資が必要ですから,アーティスト印税など,レコードの販売枚数などに応じた対価は,全て事務所が取得し,アーティストには直接は分配されないことも多いです。
ただし,固定給の場合であっても,JASRACやNexToneから支払われる音楽著作権使用料については,代表出版社が代表出版社取分を控除した上で,作詞や作曲をしたアーティストに分配する例も多いようです。
その意味では,純粋に固定給だけ,という場合はそれほど多くないと言えるかもしれません。
2 歩合制
歩合制の場合は,さまざまな活動や権利ごとに,事務所とアーティストの取分が設定されることになります。アーティストが獲得できる金銭には,以下のようなものがあります。
(1)実演の対価
- アーティスト印税
アーティストには,歌唱や演奏をすることで,実演家の権利が発生します。したがって,アーティストの実演を収録した原盤が利用される場合には,レコード会社からいわゆるアーティスト印税が支払われるのが一般的です。これは,CDなどのレコードだけでなく,音楽配信も対象となります。
アーティスト印税の相場としては,CDなどの商品の小売価格の1%程度(3000円とすると,30円)が一般的です*1。バンドなどの場合には,全員で1%となることが多く,4人編成のバンドでは,一人あたり0.25%(7.5円),選抜メンバーが16人のAKBの原盤では,0.063%(1.89円)となります*2
- ライブ出演料
また,ライブ活動についても対価が発生します。1本あたりいくら,と決める場合もありますし,アーティストによっては,ライブによって得た利益(チケット販売収入ー制作経費などの諸経費)を,事務所と分配するというケースもあります。
- 報酬請求権
これはあまり耳慣れないかもしれませんが,実演家には,商業用レコードの二次使用料,貸与報酬,私的録音録画補償金といった報酬等の分配を受ける権利を有しています。これらの内容の詳細については別エントリで解説しますが,これらの報酬等は,これらの報酬等を分配する団体に所属しなければ分配が受けられません。ミュージシャンであれば,事務所が音事協や音制連といった団体に所属していれば事務所経由で受け取ることができます。また,事務所に所属していないアーティストも,MPNといった個人加入も受け付けている団体であれば,報酬等を受領することができます。
これらのお金は,実演が利用されれば定期的に入ってくるお金ではありますが,団体に所属しないと受け取ることができず消えていってしまうものです。また,報酬請求権について知識があるアーティストは少ないので,事務所からその存在を知らされず,全く分配を受けていないケースもあります。
(2)著作の対価
- 音楽出版
アーティストにとっての著作の対価と言えば,やはり作詞・作曲による対価でしょう。これは,JASRACやNexToneといった著作権管理事業者から入金されるのが一般的です。
先日のエントリでも紹介しましたが,代表出版社との間でMPA書式による著作権譲渡契約が締結されることによって,著作権の譲渡が行われます。代表出版社が所属事務所の場合もありますし,そうでない場合もありますが,出版社取分は全体の3分の1か2分の1であることがほとんどです。
著作の対価については,バンドなどによってその扱いに差がありますが,バンド名義の作詞・作曲として,メンバーに均等に分配している例もあれば,実際に作詞・作曲を行ったメンバーが総取りする例もあります。いずれの分配方法とするにせよ,メンバー間でよく話し合って決めないと,思いがけずトラブルとなることもあります。
- 小説,エッセイなどの執筆
それ以外の著作の対価としては,書籍の執筆などがあります。辻仁成さんから星野源さんまで,ミュージシャンでありつつ作家として活躍する方もたくさんいらっしゃいます。この場合は,楽曲の制作に比べてより個人的な創作物でしょうから,仮にバンドのメンバーであったとしても,執筆を行ったメンバーが総取りすることになるでしょう。
(3)パブリシティ権の対価
- 物販
まず,Tシャツやタオルなどの物販商品の対価がこれにあたります。物販商品が1個売れるごとに,販売価格のXX%と定める場合もありますし,売上から経費を控除した利益を一定割合で分配するという場合もあります。
新人バンドなどは,グッズを手売りする場合も多いので,物販で歩合制を採用すると,手応えを実感できるようになり,アーティストのモチベーションもアップするでしょう。
- ファンクラブ収入
また,物販以外に,ファンクラブ収入もあります。ファンクラブは,年会費や月額課金によって,ユーザーから対価を徴収しますが,これらもアーティストに分配されるべき金銭です。ウェブサイトの運用費などの経費を控除した利益を,事務所とアーティストで分配することが多いでしょう。
- CM出演
これ以外にも,コマーシャルに出演した場合にも出演料などが支払われますが,これについても事務所とアーティストで分配することが多いでしょう。福山雅治さんやトータス松本さんが,ビールのCMに出演していますね。
CMの出演については,契約金という名目でまとまった金銭が支払われることが一般的です。それに加えて,スチールの撮影やテレビCMの撮影ごとに,追加の出演料が支払われるのも一般的です。
このようなアーティスト活動にまつわるお金の知識は,事務所と契約する際,条件交渉する際,また,契約が終了する際には必須の知識です。
仮に,固定給での支払いであったとしても,アーティストがレコードや物販の売上を自ら把握することで,何がファンに受け入れられ,何にファンがお金を支払ったのかを知る一助となります。
このような知識はアーティストの活動に必ず寄与するものですので,頭の片隅に入れておいて損はないでしょう。