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音楽著作権弁護士のブログ(仮)

ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

JASRAC独占禁止法違反事件(後編)

音楽ビジネス

最近JASRACが音楽教室から使用料を徴収するということで、あちこちで炎上していましたが、JASRACが炎上すると急にJASRAC関係の記事のアクセスが激増します・・・

音楽教室の件もそうですが、本件もかなり専門的かつ横断的な分野の知識が必要になりますので、なかなか正確に理解されていない面があると思います。

 

さて、中編では審決まで解説しましたので、最後は審決取消訴訟から放送使用料の徴収の現状、その他のJASRACに残された課題までを解説します。

なお、本件は独占禁止法上の論点も多数含んでいるのですが、本ブログの趣旨から、あまり深入りせずにまとめています。

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 4 審決取消訴訟

(1)東京高裁判決(2013年11月1日)

審決の内容は既に中編で説明しましたが、この審決が出されることによって、JASRACに対してなされた排除措置命令は取り消されることとなりました。公正取引委員会が自ら出した排除措置命令を自ら取り消すわけですから、通常はこれで審決が確定するはずでした。
しかし、「JASRAC無罪」の審決に対し、JASRACと競争関係にある管理事業者であるイーライセンスが、公正取引委員会を相手に東京高裁に対して審決取消訴訟を提起しました。

結論としては、この審決取消訴訟において、原告であるイーライセンスの請求が認められ、JASRACに対する排除措置命令を取り消した審決が取り消されることとなり、これにより、排除措置命令の効果が復活することになりました(判決全文)。

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そもそも審決取消訴訟は、審決の名宛人である者(本件で言えば、公正取引委員会かJASRAC)が原告となって提起することが想定されており、審決の名宛人でないイーライセンスが訴訟提起の当事者となり得るかについては、当時は一定の疑問符がつけられていました*1
本件訴訟においては、飯村敏明判事を裁判長とする東京高裁特別部により担当されることになりました。飯村裁判官は、Apple対Samsung事件やロクラクⅡ高裁判決など、多数の著名事件でインパクトのある判決を残してきた裁判官です。
本件訴訟の第1回目の期日において、JASRACが参加人として当該訴訟に参加することを許可する決定がなされ、原告をイーライセンス、それまで審査官と被審人という立場で対立する関係にあった公正取引委員会とJASRACがそれぞれ被告、参加人として、共に審決の妥当性を主張して原告であるイーライセンスと争うという奇妙な構図となりました。

審決取消訴訟における争点は複数ありましたが、重要なのは2点で、一つはイーライセンスが原告となることができるのか、もう一つは、排除措置命令を取り消した審決に、事実認定の誤りがあるのか、という点です。

1点目については、高裁は「排除措置命令を取り消す旨の審決が出されたことにより, 著しい業務上の被害を直接的に受けるおそれがあると認められる競業者については, 上記審決の取消しを求める原告適格を有するものと認められる」として、イーライセンスの原告適格を認めました。


2点目については、高裁は、審決においては重要視された「恋愛写真」の利用実績については、実質的証拠がない(=事実認定について誤りはない。)とまでは判断しませんでしたが、結論としてはJASRACの行為について排除効果を認めました。審決はこの点に着目して排除措置命令を取り消した一方で、その点は必ずしも誤りではないとしつつ排除効果を認めた高裁判決は対照的です。
このような判断は、排除行為に該当するためには、「実際に」他の事業者の事業活動を困難にし、他の事業者の参入を「具体的に」排除することまでは必要ではないという原則に従ったものと評価することができるでしょう*2

 (2)最高裁判決(2015年4月28日)

当然ですが、JASRACはこの判決を不服として、上告しました。公正取引委員会も一応上告はしています。

最高裁判決は、独占禁止法上興味深い点もありますが、本ブログの趣旨から外れるためここでは詳細は述べることはしません。端的には、JASRACがその管理楽曲に係る放送使用料の金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採用することによって、他の管理事業者の参入を著しく困難にした、と判断されました(判決全文)。

www.nikkei.com

 

最高裁判決は、独占禁止法違反となる1つの論点についてしか判断していませんので、厳密にはこの最高裁判決のみをもってJASRACが独占禁止法違反であるということにはなりません。最高裁判決により、審決が取り消されることが確定した結果、他の要件の該当性を審理するため、審判が再開されることになりました。 

 

5 放送分野の徴収方法の改善へ

最高裁判決が待たれる中、2015年2月から、JASRAC、イーライセンス、JRC、NHK、民放連に加えて、オブザーバーとして文化庁が参加する「放送分野における音楽の利用割合の算出方法に関する検討会」が行われるようになりました。このような動きは、うがった見方をすれば、最高裁においてJASRACが「負ける」ことを各プレイヤーがリアルに感じ始めたため起こったと言うこともできるでしょう。
この検討会は、排除措置命令において問題とされたアドオン構造の解消に向けた協議会であり、JASRAC、イーライセンス、JRCと3社が参入した放送分野において、どのように管理事業者ごとの使用割合を反映するかなどが検討課題とされました。
この検討会は2015年9月に合意に至り、「管理事業者が放送分野で管理する楽曲の総放送利用時間時間(秒単位)を分母とし、各管理事業者が管理する楽曲の利用時間を分子とする」ことで算出される利用割合を、各管理事業者の使用料に反映させるとの内容となりました。

www.nikkei.com

 

つまり、JASRAC、イーライセンス、JRCの3社のいずれかに管理されている楽曲が100秒使用された場合、そのうちJASRACの楽曲が90秒使われていれば、JASRACの放送使用料(使用料規程上は放送事業収入の1.5%)に、100分の90を乗じることにより、使用料を算出することになります。

これにより、イーライセンスやJRCの楽曲を使用したとしても、その分JASRACの使用料が減ることになるため、従来問題となっていた「追加負担となるから」という理由での利用回避は理屈上は発生しないこととなりました。利用割合が反映されなければ、イーライセンスやJRCの楽曲を使用すれば必ずJASRACの使用料にアドオンされて使用料が発生し、放送局が支払う使用料の総額が増加していたところ、利用割合が反映されることにより、イーライセンスやJRCの使用料がJASRACに比して安ければ、使えば使うほど使用料の総額は減少し、JASRACと同一の金額であれば、総額は上昇しないことになります。
したがって、放送局にとっても、イーライセンスやJRCの放送使用料がJASRACの放送使用料より高いのであれば別段、同じ金額または安い金額であれば、イーライセンスやJRC(現NexTone)の楽曲を使わないメリットは少なくとも放送使用料の多寡の面では存在しないことになりました。ようやく「使いたい楽曲を追加料金を気にせずに使える」ようになったわけです。

なお、この利用割合を勘案した使用料の算出は、2015年度の放送使用料から適用されており、排除措置命令が違法であると指摘した状態は既に解消されています。

細かい点を指摘するとすれば、「管理事業者が放送分野で管理する楽曲の総放送利用時間(秒単位)」が分母である以上は、放送局がクラシックなどの著作権が消滅している楽曲や著作権フリーの楽曲をいくら使おうとも、音楽にかかるコストは変わりません。先日あったブルガリアでのニュースのように、「一切管理事業者の楽曲を使わない」という方法でしか、音楽にかかるコストを削減する方法はないのが現状です。もちろん、楽曲単位の個別契約という方法もありますが、包括契約に比して単価が高いというのが現状です。
www.jiji.com


2016年2月1日には、イーライセンスとJRCが事業統合され、新会社としてNexToneが成立しました。
この後、同月にはJASRACに対する損害賠償請求訴訟を取り下げるとともに、再開されていた審判への参加も取り下げ、いわば「矛を収めた」形となりました。

この後、2016年9月9日付けで、JASRACが審判請求を取り下げる形で審判は終結し、2009年に出された排除措置命令が、およそ7年半の歳月を経て確定することとなりました。JASRACが審判請求を取り下げた理由は以下のようなものです。

  1. 排除措置命令を受けた当時、一部のFM放送事業者などにおいてしか実施されていなかった全曲報告が広く行われるようになり、同命令が求める放送事業者ごとの利用実績に基づく利用割合の算出が可能となってきた。
  2. 上記1を受けて開始した5者協議において、2015年度分以降の放送使用料に適用する利用割合の算出方法について合意したことにより、排除措置命令が問題とした状況は、既に事実上解消されつつある。
  3. 株式会社NexToneが当協会に対する損害賠償等請求訴訟を取り下げ、審判への参加についても取り下げたことにより、競争事業者間の係争事案は全て解決し、排除措置命令の正否を争う審判手続だけが残る形となった。
  4. 上記1から3までの状況の変化を考慮した結果、排除措置命令の取消しを求めて争い続けるのではなく、審判請求を取り下げて本来の業務に全力を尽くすことが権利者・利用者その他の関係者を含む音楽著作権管理事業分野全体にとって有益であるとの判断に至った。

http://www.jasrac.or.jp/release/16/09_3.html

www.nikkei.com

排除措置命令に対するJASRACの主な反論として繰り返し言われ続けていた、「全曲報告がされていない以上、利用割合を算出できない」という主張とは矛盾しない形で、何とか格好をつけての排除措置命令の受け入れとなりました。


なお、仮にこのような形で一応の解決をみたとしても、本件はJASRACが排除措置命令違反を継続していた期間において課徴金を課されてもおかしくはない事案のように思いますが、現時点では公取の見解は不明です。植村先生のブログにおいて課徴金納付命令の可能性についてわかりやすく検討されています。
kyu-go-go.cocolog-nifty.com

 

6 残された課題

放送分野の徴収という大きな問題はクリアされましたが、残された課題として、いまだに本件で問題になった放送分野と同様の、利用割合を反映しない包括徴収が行われているという点が挙げられます。
先日、音楽教室からの演奏権使用料の徴収が話題となりましたが、その主張の当否は置くとして、この利用形態が含まれる「演奏等」の分野は、その全てが利用割合が反映されない形での包括徴収が規定されています。
その他、インタラクティブ配信分野のストリーム配信分野など、一部の利用形態においては利用割合を反映するかたちの使用料徴収となっているものの、その他の多くの分野にわたり、利用割合が反映されない形での包括徴収が規定されています。このような使用料規程は、放送分野同様に、独占禁止法違反となる可能性があります。しかし、最高裁判決が出され、JASRAC自らによる審判請求の取り下げが行われた後も、これらの利用割合が反映されない形の包括徴収については、JASRACによる改善は見られません。
 
さらに、信託範囲の区分をどのように設定するかという問題があります。現状のJASRACの信託約款においては、JASRACに「演奏」を信託すると、

  1. 上演
  2. 演奏会
  3. 催物における演奏
  4. カラオケ施設における演奏
  5. ダンス教授所における演奏
  6. フィットネスクラブにおける演奏
  7. カルチャーセンターにおける演奏
  8. 社交場における演奏
  9. ビデオグラム上映

といった全ての利用態様について一括して信託する必要があります。

しかし、演奏等の利用の内訳は、以下のとおりであり、各利用態様によって大きなばらつきがあります。

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(上記割合はJASRACの2016年上半期の徴収実績による)

 

演奏分野のJASRACの管理手数料*3は諸外国に比べても高いと言われていますが、管理分野の抱き合わせが行われなければ、例えばカラオケ演奏分野は管理を信託するが、コンサートなどの演奏会における演奏は信託しない、といった権利の預け方も可能になり、演奏分野の中で大きな割合を占めるカラオケ演奏分野を信託しつつ、自ら利用することが多いにもかかわらず管理手数料が高いコンサート等での演奏分野は自己管理とすることも可能になります。 

また、SNSなどでは音楽教室においては無償で使用させてもよいと発言する権利者もいたように、権利者が音楽教室においては無償で使わせたいということであれば、その分野も自己管理して、無償で許諾を出せばよいことになります。
このような柔軟な信託が可能になれば、利用者にも権利者にも大きなメリットとなり、高い徴収能力を誇るJASRACが音楽業界の発展に寄与するものと考えられます。もちろん、これらと並行して、JASRACにおいて公平な分配方法を採用すること、利用者においても利用実態を正確に報告すること、これらを容易にするフィンガープリントなどの技術*4の開発に努めることは、どれも欠くことができないものと言えるでしょう。

 

*1:原告適格がないとする意見として、安念潤司「公取委審決取消訴訟の原告適格について」中央ロージャーナル第10巻第1号(2013)

*2:公益財団法人公正取引協会主催「『独占禁止法研究会(平成25年度)』-私的独占Ⅰ-JASRAC審決、NTT東日本判決」議事概要によれば,従来、判例も公正取引委員会も、排除行為に該当するためには、「実際に」他の事業者の事業活動を困難にし、他の事業者の参入を「具体的に」排除することが必要であるという解釈・運用を示したことはないとのことです。

*3:実施料率は25%

*4:BMATに関する過去記事参照。

ポール・マッカートニーと終了権制度

音楽ビジネス

先日、ポール・マッカートニーが、ニューヨークで、ビートルズのメンバーとして彼が創作した楽曲の著作権を取り戻すことについての確認を求めて、Sony/ATVに対して訴えを提起したとのニュースがありました。

f:id:gktojo:20170205044509p:plainPaul McCartney Sues to Get Back His Beatles Songs

https://www.nytimes.com/2017/01/18/business/paul-mccartney-beatles-songs-lawsuit-sony.html

この提訴の背景にあるのは、米国著作権法に定められた「終了権」という制度です。

この制度は、簡単に言ってしまえば、例えばある著作権を第三者に譲渡してしまった場合であっても、一定期間経過後に、権利者に書面を送達することでその譲渡を終了させ、著作権を取り戻すことができるという権利です*1

1978年1月1日以降に権利譲渡がされた作品については、最速で35年を経過した時点で、その著作権を取り戻すことができるとされています*2。 

第203条 著作者の権利付与による移転および使用許諾の終了
(a) 終了の条件ー職務著作物以外の著作物の場合、1978年1月1日以後に著作者が遺言以外の方法によって行った、著作権またはこれに基づく権利の移転または独占的もしくは非独占的な使用許諾の付与は、以下の条件において終了する。

・・・(中略)・・・

(3) 権利付与の終了は、権利付与の実施の日から35年後に始まる5年間にいつでも行うことができる。また、権利付与が著作物を発行する権利にかかる場合、上記期間は、権利付与に基づく著作物の発行の日から35年後または許可の実施の日から40年後のうち、いずれか早く終了する期間の最終日から起算する。 

一般的に、アーティストは交渉力が弱いことが多く、音楽出版社などと契約を結ぶ際に、不利な条件で契約を締結せざるを得ないことが多いといえます。仮にその曲が大ヒットしたとしても、交渉力が弱いうちに不利な条件で長期の契約をしてしまうと、その楽曲が莫大な利益を生み出しながらも適切な対価がアーティストに対して支払われないままとなってしまいます。このような立場上弱いアーティストに、再交渉のセカンドチャンスを与え、適切な対価を取得させようというのが、終了権の趣旨です。

最近でこそ、日本でも10年またはそれ以下を譲渡期間とする著作権譲渡契約書をよく目にするようになりましたが、交渉力のないアーティストは「著作権存続期間(=死後50年)」にわたり譲渡する、とされることが多い日本の音楽業界にとっては衝撃的な制度です。現在のトップアーティストであっても、交渉力のない時期に、不利な条件(著作権収入の50%が音楽出版者の取分)で著作権存続期間にわたる著作権譲渡契約を締結せざるを得ないという例も多々ありました。

日本で音楽著作権の譲渡時に使われるMPA書式には、

第1条(目的)
本件作品の利用開発を図るために著作権管理を行うことを目的として、甲は、本件著作権を、以下に定める諸条項に従い、乙に対し独占的に譲渡します。(後略)

とありますが、いったい50年以上にわたりどんな「利用開発図るための著作権管理」をしているのか謎です。利用開発しないんだったら権利を返してくれ、と言いたくなるのも当然です。

実際に米国においてこの終了権制度は機能しており、記事によればボブ・ディラン、トム・ペティ、プリンスなどのアーティストが、終了権の行使を盾として、よりよい条件にて再交渉をすることができたとあります。

なお、記事には、Duran Duranが英国で終了権行使を主張して提訴した事案が紹介されています。この事件の判決文全文には目を通していませんが、記事等によれば、著作権譲渡契約の準拠法が英国法のみであるため米国法に基づく終了権は行使できないとするSony/ATVの主張が認められたようです。

Duran Duran Loses Case, Brought In Britain, Over American Copyrights | Billboard 

Duran Duran事件判決

(Gloucester Place Music Ltd v Le Bon & Ors [2016] EWHC 3091 (Ch) (02 December 2016) )

http://www.bailii.org/cgi-bin/format.cgi?doc=/ew/cases/EWHC/Ch/2016/3091.html&query=%28Gloucester%29+AND+%28Place

  

この判決を受けて、Sony/ATVはポールに対しても同様の対応をしたため、ポールは提訴に踏み切ったとされています。

 Mccartney termination by Eriq Gardner on Scribd

 

いずれにせよ、法律により交渉力のアンバランスを是正しようとすることは、アーティストがギルドや組合などによって組織化されていない日本にこそ必要な制度であると思います。日本法においても消費者保護法制は存在しますが、アーティストは個人事業主であるため、それだけで多くの消費者保護の法律が適用されなくなってしまいます。「個人事業主である以上、契約については大企業と対等な立場である」などという考えが単なる理想論にしか過ぎないことは明らかです。アーティストやアスリートなどの契約上弱い立場に立たされる個人事業主にも、交渉力のアンバランスを是正する法制度が必要なのではないでしょうか。

なお、この記事を作成するにあたっては、安藤和宏「アメリカ著作権法における終了権制度の一考察 ―著作者に契約のチャンスは2度必要かー」(早稲田法学会誌第58巻2号(2008))を改めて拝読させていただきました。2008年時点で終了権に着目し、日本法においても交渉力の不均衡を是正する制度の構築を提言されているのはさすがです。

 

 

*1:具体的な手続については、

The Right to Terminate: a Musicians’ Guide to Copyright Reversion | Future of Music Coalitionが詳しいです。

*2:1978年1月1日以前に権利譲渡された作品については、304条(c) が適用されます。本件でも203条ではなく、304条の問題として訴訟提起されています。

JASRAC独占禁止法違反事件(中編)

音楽ビジネス

年をまたいでしまいましたが前回の続きになります。 前編では、JASRACの放送における包括契約がなぜ問題であったのか、そして、その歴史的な背景を解説しましたが、後編では、JASRACに立入検査が入ってから本件が終結するまで、主に法的な紛争について説明します。

なお、後編を作成するにあたって、前編にも少し修正を加えています。

 

  • 2008年4月23日 公取委、JASRAC立入り検査
  • 2009年2月27日 公取委からJASRACに対して排除措置命令
  • 2009年4月28日 JASRACから審判請求
  • 2009年5月25日 公取委、審判開始決定
  • 2012年2月2日  JASRACに対する審決案の送達
  • 2012年6月12日 審決案確定、公取委排除措置命令を取り消す審決

 

3 立入検査~審判手続

(1)立入検査(2008年4月23日)

2008年4月23日、公正取引委員会がJASRACに対して立入検査に入りました。

立入検査とは、独禁法47条1項4号に基づくもので、「事件関係人の営業所その他必要な場所に立ち入り、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査すること。」ができると定められています。このような立入検査は、あくまで独占禁止法違反の有無を明らかにするために行われるものであり、まだ当時は独占禁止法違反の「疑い」があるという段階でした。

JASRACはこの立入検査に対して、

 4月23日(水)、公正取引委員会がJASRACに立入検査を行い、JASRACはこの検査に全面的に協力いたしました。
 今後の対応につきましては、検査の結果を踏まえて適切に対応してまいりたいと考えています。

とコメントを出しています。

 

(2)排除措置命令(2009年2月27日)

2009年2月27日、公正取引委員会はJASRACに対して、独占禁止法3条(私的独占の禁止)違反を理由として、排除措置命令を行いました。

排除措置命令は、以下URLで確認できます。

http://www.jftc.go.jp/dk/ichiran/dkhaijo20.files/090227.pdf

 

JASRACも、 排除措置が出された当日にプレスリリースを出し、排除措置命令に不服があること、審判請求をする予定であることを述べています。

2009年2月27日「公正取引委員会に対する審判請求について」

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

  

排除措置命令においては、違反行為の概要として以下の点が挙げられています。

  1. JASRACは、放送事業者から包括徴収の方法により徴収する放送等使用料の算定において、放送等利用割合が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用している。これにより、当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には、当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなる*1
  2. これにより、JASRAC以外の管理事業者は、自らの放送等利用に係る管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されず、また、放送等利用に係る管理楽曲として放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができないことから、放送等利用に係る管理事業を営むことが困難となっている。
  3. 前記1の行為によって、JASRACは、他の管理事業者の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している。

 なお、この点がよく勘違いされるのですが、排除措置命令が問題としているのは、包括徴収という徴収方法自体ではありません。あくまで「放送等利用割合が当該放送等使用料に反映されないような方法」による包括徴収が問題視されたに過ぎません。

この点、海外の管理団体でも包括契約が採用されており、何ら問題なく運用されているであるとか、包括契約はユーザーの利便性が高く、包括契約ができないとユーザーの利便性が損なわれるという反論*2がされることもありましたが、そもそも包括契約自体を問題にしているわけではありませんので、まったく的外れな反論ということになります。

すなわち、包括契約であったとしても、「放送等利用割合が当該放送等使用料に反映されるような方法」であれば、それは問題視されなかったわけです。

 

実際、排除措置命令は、アドオン構造を生むような行為を取りやめるように命じているに過ぎず、具体的にJASRACが取るべき方法については何も明示していません。

つまり、何らかの方法で放送等利用割合をJASRACが徴収する放送等使用料に反映させればよいのであり、放送等利用割合が正確に算出できないとしても、サンプリングや録音権等の他分野の管理事業者間のシェアを参考にするなどの方法により、放送等利用割合を算出し、その割合を包括使用料に乗じるなどの方法が考えられるところです。

しかし、後述するとおり、JASRACは審判や裁判において、放送については全曲報告ができず、正確な利用割合が算出できないため、利用割合を反映することができないという趣旨の主張をしていました*3

 

(3)審判手続(2009年4月28日)

当時の独禁法において、公正取引委員会から排除措置命令を受けた者は、その取消しを求めて公取委の審判を請求することができると定められていました(当時の独禁法49条6項)。

JASRACはこの規定に従い、排除措置命令を不服として公正取引委員会に対して審判請求を行いました。独占禁止法上の審判制度は既に廃止されてしまいましたが、いわゆる行政不服審査として、処分を行った行政庁自らがその当否について判断するという制度です。排除措置命令の取消しを行うにあたっては、いきなり命令の取消訴訟を提起することはできず、まずは行政庁の審決を経なければならないとされていました(当時の独禁法77条3項)。 

2009年4月28日「公正取引委員会に対する審判請求の申立について」

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

また、審判請求を行うだけでは、排除措置命令は停止されないため、JASRACは並行して執行停止の申立てを行い、2009年7月9日には1億円の保証金を供託することで執行が停止されるとの決定が東京高裁において出されました。これにより、JASRACは審判手続、それに続く取消訴訟などが係属している間は、排除措置命令に従う必要がないこととなりました*4

 

この審判手続は3年あまりの審理を経て、排除措置命令を取り消すという内容の審決案が、2012年2月2日に当事者であるJASRACに送付される結果となりました。

2012年2月2日「公正取引委員会からの審決案の送達について」

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

審判においては、裁判における判決のように審決が出されることになりますが、審決案の制度が審判規則で設けられており、審決が出される前に、審決案を各当事者の送付し、異議申立ての機会を与えることとされていました。

また、審決をする主体は公正取引委員会となりますが、公正取引委員会は審決案が送達された日から2週間経過した後に、審決案が適当と認められれば審決案と同じ内容の審決をすることができるとされています。

ほとんどの場合は、「審決案=審決」となりますので、審決案が出された時点で、JASRACの主張を認める審決が出たことは確定的であったと言えます。

しかし、排除措置命令を取り消す旨の審決案と同様の内容の審決が出されたのは、2012年6月12日という、審決案の送達から4か月以上も経過した後のことでした。

平成21年(判)第17号 平成24年6月12日付審決書

http://snk.jftc.go.jp/JDS/data/pdf/H240612H21J01000017A/120612-21_17.pdf

さらに、審決を見ればわかりますが、5名の公正取引委員会の委員のうち、4名の公正取引委員会の委員の名前しか記載されていません。名前のない委員は商法学者の浜田道代委員ですが、この点について、

真偽は定かではないが、報道によれば、名を連ねていない委員は、審決案に反対し、少数意見を書こうとした、ともいわれる。

(白石忠志・Law & Technology 57号 34頁 2012年10月)

との言及もあります。

いずれにせよ、排除措置命令を取り消すという内容のみならず、審決案から審決までに至る手続的な過程においても、異例な審決であったと言えます。

 

審決の内容に関しては、多数の評釈が出ていますので、簡単に触れておくと、審決はJASRACの行為には排除効果が認められないことを理由として取消審決を行い、その他の争点については判断しませんでした。

審決が排除効果を否定したロジックは、「審査官は、イーライセンスが平成18年10月に放送等利用に係る管理事業を開始するに際し,被審人の本件行為が実際にイーライセンスの管理事業を困難にし,イーライセンスの参入を具体的に排除した等として,それを根拠に本件行為に排除効果があったと主張するので,以下,その主張の成否を検討する。」としたうえで,「審査官の主張について,これを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。」と結論付けるというものです。

審決は、JASRACの行為について、新規参入の消極的要員となることを認めつつも、審査官が主張した具体的な排除行為が認定できないことを理由として、いわば弁論主義的な観点から排除効果を否定したものと解釈できます。

つまり、これまでは排除効果の成立にあたり、「実際に」他の事業者の事業活動を困難にし、他の事業者の参入を「具体的」に排除することまでは求められてはいなかったものの、審査官が「具体的に排除された」と主張したため、「具体的に排除された」かどうかを審理し、「具体的に排除された」とまでは認められなかったため、排除効果が否定されることになったものと思われます。つまり、大塚愛さんの「恋愛写真」は、遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されていたと判断されたことが、結論に対して大きな影響を及ぼしたものと考えられます。

 

審判においても、大塚愛さんの楽曲を含め、イーライセンス楽曲は遜色なく放送番組において利用されていたとJASRACは主張しており、一つの争点を形成してしまっていました。

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この図表を見ると、確かに遜色なく利用されているように見えますが、前編で記載したとおり、管理開始の10月1日から12月末日までのエイベックス楽曲の利用が10月2週*5に無償化されているため、JASRACの整理のように、週ごとのまとめでは、無償化を受けて利用されたものか否かが判断できず、これだけでは必ずしも「遜色なく利用されていた」かどうかは明らかではありません。

しかし何より重要なことは、本来実際に大塚愛さんの楽曲の利用が差し控えられたかどうかは排除行為を認めるにあたっては問題ではないという点です。これはJASRACの訴訟戦術が上手だったと考えるべきかもしれませんが、審判官がJASRACが勝てる土俵に引きずり込まれてしまったという印象です。

この後、審決取消訴訟、上告審とさらに本件は続いていくわけですが、この時適切な主張立証がなされていれば、本件はもっと早期に根本的な解決を見ていたのではないでしょうか。

 

何だかんだで長くなってしまいましたが、最後は審決取消訴訟について説明します。

*1:前編で解説した、いわゆる「アドオン構造」のことです。

*2:ユーザーの利便性については、単に「包括許諾」か「個別許諾」かの問題であり、「包括徴収」の問題ではありません。

*3:しかし、権利者への分配はサンプリングで行っているのに、利用割合を算出する場合に限って全曲報告による正確なデータがなければ利用割合を反映できないとする点は、いささか疑問を感じるところです。

*4:執行停止を求めることはJASRACの権利ではありますが、これにより、JASRACとしては事案が長引けば長引くほど現状維持のメリットを享受できることになり、本件の長期化の一因となったのではないかと思います。

*5:具体的に無償化がいつ放送局に伝わったかについては、後の審決取消訴訟において争われています。

JASRAC独占禁止法違反事件(前編)

音楽ビジネス

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2016年9月9日、JASRACが公正取引委員会への審判請求を取り下げたという報道がありました。

www.nikkei.com

また、JASRACから取り下げについてのプレスリリースも出されています。

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

 

名実ともに、一つの事件が終わったという感じですが、この事件の歴史をここに整理しておきたいと思います。

 

1 何が問題だったのか

(1)そもそも「包括契約」とは

著作権等管理事業者の使用料規程の中には、特に音楽著作権の分野を中心に、著作権使用料を事業収入や利用場所の面積や座席数等によって一定の月額料金や年額料金を支払う形の、いわゆる「包括契約」の形をとっているケースが多くみられます。

例えば、JASRACの使用料規程においては、いわゆるライブにおける演奏の使用料について、以下のように定めています。

2 演奏会における演奏

演奏会(コンサート、音楽発表会等音楽の提供を主たる目的とする催物をいう。)に おける演奏の使用料は、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。

(1) 公演1回ごとの使用料は、次のとおりとする。

① 入場料がある場合の使用料は、総入場料算定基準額の5%の額とする。ただし、定員数に5円を乗じて得た額あるいは2,500 円を下回る場合には、そのいずれか多い額を使用料とする。

② 入場料がない場合で、かつ公演時間が2時間までの場合の使用料は、定員数に4円を乗じて得た額あるいは 2,000 円のいずれか多い額とする。 公演時間が2時間を超える場合の使用料は、30分までを超えるごとに、公演時間 が2時間までの場合の金額に、その25%の額を加算した額とする。

         (JASRAC使用料規程 平成28年3月3日届出)

以上のとおり、公演1回ごとの使用料は、入場料ベースで算定されますので、何曲使われたとしても金額は一定です。演奏すればするほど、1曲あたりの使用料は下がるという計算になります。

このように、対価の算定方法が包括的であるものを「包括徴収」といいます。

一方、1曲いくらと定められるのが「個別徴収」です。例えば、前述の演奏会における演奏のうち、入場料がない場合の個別使用料は、定員100名以下の会場については、1曲1回250円と定められています。

これとは別に、事前に使用楽曲を提出し、曲ごとに使用許諾を得る「個別許諾」と、あらかじめ管理事業者が管理する全ての楽曲の利用を包括的に許諾する「包括許諾」という概念があります。

これらの2つの概念は、組み合わせが可能で、一般的な包括契約は「包括許諾+包括徴収」ですが、「包括許諾+個別徴収」というやり方もあり得るわけです。つまり、個別許諾の場合は、申告漏れがあると違法利用になってしまいますが、包括許諾の場合は、それがないため、安心して利用できます。それとは別途、対価の定め方としては、1曲毎に精算しようが、包括的に精算をしようがどちらでもいいということになります。

この事件を正確に理解するためには、単に「包括契約」といっても、2つの概念が含まれていることに留意する必要があります。

このような包括契約は、JASRAC以外のイーライセンス、JRCといった日本の他の管理事業者のみならず、世界中において一般的に採用されていました。包括許諾の点から言えば、前述の通り、1曲ごとに許諾申請をして個別に精算を行うのは実務上非常に煩雑であることがその大きな理由です。また、包括徴収の点から言えば、音楽を大量に使う場面では、1曲いくらの個別徴収より包括徴収のほうが結果的には割安になることが多かったためです。

さて、このように、利用者にもメリットがある包括契約がなぜ問題になったのでしょうか。 

(2)イーライセンスの放送分野参入と「恋愛写真」

2006年10月にイーライセンスが放送分野に参入することになりました。イーライセンスやJRCといった新規参入事業者は、それまで管理が比較的容易な録音分野、インタラクティブ配信分野に参入していましたが、放送分野は音楽著作権管理事業の中で非常に大きなパイを占める分野ですので、その意味でも参入の必要性は高かったのだろうと考えられます。

以下は2015年度のJASRACの使用料収入の内訳ですが、放送分野の徴収額が全体の30%程度を占めていることがわかります。

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(引用:プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

 

イーライセンスは放送分野の参入にあたり、大手音楽出版社を持つエイベックスグループの協力を得て、当時ヒットが見込まれた人気アーティストの楽曲について、放送分野の管理を開始しました。その一つが、大塚愛さんの「恋愛写真」でした。 

恋愛写真

恋愛写真

  • 大塚 愛
  • J-Pop
  • ¥150
  • provided courtesy of iTunes

 当時、エイベックスは、JASRAC がダブル・タイアップやトリプル・タイアップといった、複数のタイアップによる使用料の免除を認めておらず、プロモーションの観点から不便を感じていたことや、放送使用料の分配がサンプリング報告に基づくために、分配方法が不明朗であることに不満を感じていたため、イーライセンスに権利委託することを決定したとされています*1

 

大塚愛さんの「恋愛写真」は、10月25日にリリースが予定されていたので、ちょうどイーライセンスが管理を開始する10月初旬頃から、エイベックスのプロモーターが放送局を回り、CDをかけてもらうように働きかけを始めていました。しかし、プロモーターからイーライセンスとエイベックスに対して、放送局の中にはイーライセンス楽曲を使用しないように決定しているところがあるとの報告がされることになりました。

 

なぜ「恋愛写真」が放送でかからなかったのか。

JASRACは、後の審判手続や裁判手続において、実際には他の同種の楽曲と遜色なく放送で利用されていたとデータとともに主張していました。

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(引用元:http://www.jasrac.or.jp/release/09/10_1.html

 

実際に「恋愛写真」が放送で使われたか使われなかったかはさておき、JASRACと放送局は包括契約を締結している以上、一定額を支払えば音楽は使い放題である一方で、イーライセンスとは個別契約を締結していたため、1曲使えば1回分の使用料がJASRACの使用料に追加して必要になることになります。つまり、イーライセンス楽曲を使えば、必ず使用料の総額は従来JASRACだけに支払っていた金額にアドオンされることになります。このようなアドオン構造により、放送局はイーライセンス楽曲の使用を差し控えようとすることは(実際に差し控えるかはさておき)経済原理から明らかといえます。

ヒットが見込まれる「恋愛写真」が放送において使用されないという事態を受けて、イーライセンスとエイベックスは、管理開始の10月1日から12月末日までのエイベックス楽曲の放送使用料を無料とすることを決定し、放送局に通知しました。このような決定は、放送で使われることによる音楽著作権使用料収入よりも、プロモーションが阻害されてCDの販売枚数が伸び悩むことを懸念した上での苦渋の決断であったと思われます。

結局、事態改善の見込みが立たないとして、エイベックスは12月末日をもって、イーライセンスへの楽曲の管理委託を解約し、翌年からはJASRACに権利を信託することとなりました。これにより、イーライセンスの放送分野への参入は実質的には失敗に終わりました。

このように、大塚愛さんの「恋愛写真」という、放送でかなりの回数が放送されることが見込まれる楽曲すらも放送されないという事態を受けて*2、独占禁止法上の問題が改めて浮き彫りになったものと言えます。

 

2 公正取引委員会が排除措置命令を出すまでの「歴史」

(参考年表)

  • 1899年 著作権法制定,ベルヌ条約加盟
  • 1932年 プラーゲ旋風
  • 1939年 大日本音楽著作権協会設立(JASRAC前身)、仲介業務法施行
  • 1948年 日本音楽著作権協会に改名
  • 1998年 仲介業務法の見直しについての検討開始
  • 1999年 メディア・アーティスト協会(MAA)設立
  • 2000年 イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)設立
  • 2001年 著作権等管理事業法施行、法的な独占管理時代の終焉
  • 2006年10月 イーライセンス、放送分野参入

 

以上のような話を経て、公取の立入検査、排除措置命令へと続くのですが、ここで、管理事業法成立に至るまでの歴史を簡単に整理してみましょう。

話は20世紀、ドイツがポーランドに侵攻し第二次世界大戦が勃発した年である1939年に、JASRACの前身である大日本音楽著作権協会が設立されました。当時のJASRACは、プラーゲ旋風に対抗するために国が定めた仲介業務法に基づいて設立され、国の主導の下、独占的に音楽著作権の管理業務を行っていました。これがJASRACによる音楽著作権の独占管理の時代の始まりで、2000年に著作権等管理事業法ができるまでの実に60年にわたり、日本の音楽著作権管理を行う唯一の団体として存在してきました。

しかし、20世紀も終わりに近づくと、マルチメディアコンテンツやインターネットが普及するにつれ、JASRACは迅速に使用料規程などを整備できず、デジタルにおける音楽利用について権利者、利用者のいずれからも不満が高まっていました。

当時、音楽配信やマルチメディア商品による音楽の展開に積極的だった先進的なアーティストもいましたが、JASRACは使用料規程が定まっていないことを理由として、なかなかそういった利用が認められないという状況にありました。

そんな中で、坂本龍一さんらが中心となり、メディア・アーティスト協会(MAA)*3が設立されデジタルメディアにおける著作権について、提言を行うなどの動きが始まっていました。

アーティストが立ち上がる!「メディア・アーティスト協会」発足

 

そのような時代を背景として、著作権等管理事業を自由化する「著作権等管理事業法」が成立し、2001年より施行されました*4。これにより、60年の長きにわたり続いた音楽著作権の独占管理の時代が終わることになりました。

なお、JASRACによる独占状態が長きにわたり続いていたことに鑑み、著作権等管理事業法が成立するにあたっての衆参両議院の附帯決議において、独占禁止法上の問題があることの懸念が既に示されていました。

3 著作権等管理事業者間の自由かつ公正な競争の確保、著作権等管理事業者の利用者に対する優越的地位の濫用の防止及び著作物等の利用の円滑化を図るため、公正取引委員会をはじめ関係省庁が協力して適切な措置を講ずるよう指導を行うこと。

文教委員会【第150回国会】

 

また、著作権等管理事業法施行後まもなく、著作物の1分野に管理事業者が複数存在するようになったため、既存の管理事業者の包括契約が、新規参入管理事業者の競争を阻害する要素になるとの問題が指摘されるようになっていました。

施行から2年後の2003年に公正取引委員会が発表した、「デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会報告書」においても、

複数の著作権管理事業者が存在し、活発な競争が行われていくことが利用者にとってもメリットが大きいものであることを踏まえ、複数の著作権等管理事業者の存在を前提とした取引ルールが形成されることが望ましい。

として、管理事業者間の競争に関する懸念が示されていました。

このような背景があったうえで管理事業法が成立したわけですから、JASRACの独占禁止法上の問題は、起こるべくして起こったということができるでしょう。

次回は、公取による立入検査から事件の終結までを整理します。

 

*1:この辺りの経緯については、安藤和宏「JASRAC の放送包括ライセンスをめぐる独禁法上の問題点」に非常に丁寧に記載されています。

*2:実際に放送されたかされなかったかはさておき、少なくともエイベックスのプロモーターは「恋愛写真」が本来放送される程度には放送されていないと判断したものと思われます。

*3:MAAの発起人には、「Dの食卓」で著名な飯野賢治さんや、近年初音ミクとコラボした冨田勲さん、アーティストの佐野元春さんなどが名を連ねています。

*4:著作権等管理事業法成立の背景などについては、著作権法令研究会「逐条解説 著作権等管理事業法」(有斐閣、2001)、清野正哉「解説・著作権等管理事業法―平成13年10月施行で著作権ビジネスが変わる」(中央経済社、2001)を参照。

Merlin(マーリン)日本事務所開設

音楽ビジネス

先日、Merlinの日本事務所が開設されるとの報道がありました。

www.asahi.com

また、Merlin本部のウェブサイトにおいても、日本事務所の開設についてのリリースがされています。

www.merlinnetwork.org

 

1.Merlinとはどんな団体なのか

Merlinは、2007年に設立された比較的歴史の浅い非営利の国際団体で、本部はアムステルダムにあります。

まず、Merlinとは何をしている団体なのでしょうか。

簡単にいうと、Merlinは原盤の権利についてレーベルから委託を受けて、音楽配信サービスにライセンスをする業務を行っている団体です。 

最近日本でもSpotifyがサービスを開始しましたが、昨年始まったAWAやLINE Musicとともに、日本でも多くのサブスクリプションサービスが展開されるようになりました。 Merlinはこれらの音楽配信サービスに対して、原盤のライセンスをし、使用料を徴収し、レーベルに分配しています。

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もちろん、個々のレーベルとそれらの音楽配信サービスとの間で直接契約を締結してライセンスすることも可能で、実際に直接契約しているレーベルも多数あります。 

Merlinはこのようなサービスを提供していますが、近年急成長を遂げており、実に240億円以上の使用料が既にMerlinを経由してレーベルに分配されています。Merlinには700以上のメンバーがいますが、それにはアグリゲーターなども含まれていますので、レーベル数で言えば20000を超えているとされています。

それでは、なぜMerlinを経由してライセンスをする必要があるのでしょうか。

 

2.Merlinは何のためにあるのか

YouTubeを始めとする世界的な音楽配信サービスは、圧倒的な交渉力を利用して、レーベルにとって極端に不利な契約を結ぼうとすることも少なくありませんでした。
特に、三大メジャーを除くインディーズレーベルはほとんど交渉力がない場合が多く、不利な契約をやむなく締結せざるを得ないという状況もありました。

以下は、主にAmazonの契約に関する記事ですが、音楽配信サービスにおいても類似した状況がありました。

nlab.itmedia.co.jp

このような状況で、インディーズレーベルが権利を持っている原盤を多数集めてバルクでライセンスをすることによって交渉力を高め、YouTubeを始めとした巨大な音楽配信サービスに、条件面で対抗していこうというのがMerlinの目的です。

音楽配信サービスとの交渉をMerlinが行うことにより、Merlinのメンバーはより好条件でのそのサービスに原盤を提供することができることになります。

Merlinと音楽配信サービスとの間の契約内容は、Merlinのメンバー以外には開示されていませんが、Merlinが急成長を遂げていることからも、インディーズレーベルが個別に交渉するより好条件となっていることは想像に難くありません。

また、単なる条件面でのメリットのみならず、Merlinが音楽配信サービスとの契約交渉を行ってくれるため、個別のサービスと契約交渉を行わなくてよいという、契約コストが削減できるというメリットもあります。

Merlinは、YouTubeやSpotifyを始めとした世界的にメジャーなサービスを始めとして、AWAといった日本のサービスにもライセンスを行っており、今後ライセンス先は増加していくものと思われます。

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3.日本事務所開設の意義

Merlinのアムステルダム本部以外の事務所開設は、ロンドン、ニューヨークに次いで、東京が3番目となります。東京事務所の代表は、日本の音楽業界を知り尽くしている谷口さんです。

日本が世界有数のインディーズ大国であることはすでに紹介したとおりです*1。ほとんどの海外発の音楽配信サービスは、英語での契約締結が必要であることからも、日本のインディーズレーベルが、海外の音楽配信サービスと交渉して、よい条件を勝ち取るのは相当な困難であるという状況でしたし、現時点でもそうでしょう。

そのような意味で、日本のレーベルがMerlinに権利委託を行うメリットは大きかったものと思われます。Merlinは、日本事務所の開設以前から日本のレーベルの権利委託を受け入れていますが、そのMerlinとの連絡や契約締結は英語で行う必要がありました。その意味では、契約締結時のみならず契約後のサポートに関しても、不安が残るという状況であったかもしれません。

しかし、日本窓口ができることにより、それらのハードルが解消され、日本のレーベルが持っている音源を、よりカジュアルに世界中で配信できるでしょう。

Merlinを通してライセンスを行えば、個別のハードな交渉を経ずとも、世界中でサービスを展開している音楽配信サービスで楽曲を配信することができます。音楽不況が叫ばれて久しいですが、世界中から薄く広く使用料を徴収することにより、アーティストが音楽活動をより充実させることも可能になるでしょう。また、これまで聴かれるチャンスすらなかった楽曲が、サブスクリプションサービスを通じて世界中に配信されることで、日本のアーティストの楽曲が異国の地で突然ヒットする、という可能性もゼロではないと思います。

このように、Merlinの日本事務所開設によるMerlinの周知は、多くのレーベルとアーティストにとって、大きなメリットとなると思われます。

*1:韓国もインディーズ大国ですので、Merlinがアジア地域を重視するのももっともでしょう。

原盤供給契約

音楽ビジネス

以前のエントリでは、原盤に関する契約として、共同原盤契約について紹介しましたが、今回は、原盤供給契約に関する解説をします。 

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1 概要 ~そもそも原盤供給契約って

共同原盤契約は、原盤を共同して制作し、原盤に関して発生するレコード製作者の権利も共有になるのですが、通常は全てレコード会社に権利が譲渡されるという契約であることは以前のエントリでも説明したとおりです。
まず、原盤供給契約は、このような原盤の制作に関する契約とは異なり、既にある原盤をレコード会社等にライセンスする契約であるという意味で、その性質が異なっています。

共同原盤契約においては、その原盤に関する権利はレコード会社に移転してしまう一方で、原盤供給契約は単なるライセンスですので、レコード製作者の権利などの権利はライセンサーである原盤供給者に留保されたままとなっています。

また、共同原盤契約においては、権利譲渡の対価として原盤印税が支払われますが、原盤供給契約においては、ライセンス(利用許諾)の対価として、原盤印税が支払われます。原盤印税の相場としては、13~16%程度でしょうか。

原盤供給契約は、原盤を自らの費用で製作しなければならないという点がデメリットではありますが、制作費を負担するというリスクを負えば、それがヒットした場合には大きなリターンを得ることができます。
しかし、最近は、パッケージメディアの売上減少や、コンピュータの利用によって原盤制作費はかなり下がっており、1曲あたり数十万程度で原盤を制作することができますので、原盤制作費を負担するというデメリットはそれほど大きくなくなっているのが実情です。

以上のように、共同原盤契約において原盤制作費を50%ずつ負担するのは、映画やアニメなどの制作委員会方式にも似たリスク回避の側面がある一方で、原盤供給契約は、そのリスクを全て負担することにより、大きなリターンを得ることができます*1。したがって、ヒットが見込めるアーティストを抱えるプロダクションにおいては、自ら原盤制作費を負担し、レコード会社に原盤供給するという方法を取ることが多いです。

さらに、原盤供給契約には、ライセンスを終了できるというメリットがあります。ほとんどのレコード会社の契約書においては、その譲渡期間は、著作隣接権の存続期間満了までとされています。共同原盤契約において、譲渡期間を定めることができないというわけではないのですが、一般的に大手のレコード会社はその点の契約書の修正にほとんど応じないため、実質的に、共同原盤契約とする以上は、たとえ50%の制作費を負担して原盤を制作したとしても、その権利自体を取り戻すことはほとんど不可能と言えます。

一方で、原盤供給契約は単なるライセンスなので、契約期間さえ定めておけば、契約はその期間で終了し、原盤権を持っているプロダクション、アーティストとしては、より条件のよい他のレコード会社などからその原盤を使ったレコードをリリースすることができるようになります。

なお、たまに原盤供給契約にもかかわらず、契約期間中は原盤をレコード会社に期限付で譲渡するという条項をひっそりと提案してくるレコード会社もありますが、原盤を供給する側としてはそれに応じるメリットはなく、あくまでレコード会社の都合ということになります。

 ---------------------以下は愚痴になります。---------------------

これはかなりマニアックな話ではありますが、本来レコード製作者の権利に基づいて分配される商業用レコードの二次使用料などの隣接権使用料について、原盤供給者は受け取ることができません。なぜか、単に原盤を供給されている、ライセンシー側のレコード会社が全部持っていくという慣習になっています。この使用料は、レコード協会を通じて分配を受けることになるので、レコード協会に加盟していない単なる原盤供給者は分配を受けることができません。レコード協会加盟のレコード会社から、手数料を控除してでも分配してくれてもよさそうなものですが、一切分配しないのが慣習です。なお、分配しないことについて合理的な理由も不明です。

そもそも隣接権使用料の分配のシステムなどに問題があるのかもしれませんが、レコード会社中心の理解不可能なルールの1つです。

 

(参考:隣接権使用料の分配の流れ)

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(引用 一般社団法人日本音楽制作者連盟「音楽主義」)

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2 原盤供給契約の具体的な条項について

原盤供給契約においては、具体的には以下のような事項を定めます。

(1) 原盤の使用許諾範囲

共同原盤契約においてはレコード会社に全ての権利が譲渡されることが一般的ですので、使用範囲を制限するのはなかなか容易ではありません。しかし、原盤供給契約は単なるライセンスですので、例えば配信限定の利用とか、サブスクリプションサービスには許諾を出さないとか、さまざまな条件を付けやすいといえます。

(2) 原盤の制作費

原盤供給者が負担すると明記されます。
なお、忘れがちなのがジャケットの権利です。原盤供給契約においては、ジャケットをどちらが費用を負担して制作するのか、権利はどちらにあるのかはしっかりと決めておくようにしましょう。ちなみに、せっかく原盤供給契約であっても、ジャケットの権利がレコード会社にある場合は、契約終了後はそのジャケットを使えなくなってしまいますので*2、供給する側で製作して権利を保有しておくことが望ましいでしょう。

(3) 契約期間

原盤供給契約のキモとなる契約期間です。期間の設定もさまざまですが、3年程度の短期から10年といった長期にわたり設定されることもあります。原盤供給する側としては、いつでも契約を終了できること自体がメリットですから、期間は短い方がよいでしょう*3

また、原盤供給契約にはセルオフ期間が定められるケースがほとんどです。セルオフ期間とは、契約期間中に製造したCD等の在庫について、一定期間は販売することができるとする規定です。期間は半年程度が一般的でしょう。もちろん、この期間に販売されたCDからも印税が発生します。
なお、在庫がない配信についても配信停止手続にかかる期間として謎のセルオフ類似の猶予期間を設定されるケースもありますが、実際に中止されるかはさておき、配信の中止手続き自体は契約終了と同時にできるはずですので、「契約終了と同時に配信の中止手続きを行うこと」「実際に中止されたら通知すること」という2つの条件を要求しておきたいところです。

(4) 対価

印税率を定めます。前述のとおり、13~16%程度が多いものと思われます。配信の場合はこの倍程度でもおかしくはないでしょう。また、原盤供給側は、プロダクションなどのアーティストサイドであることも多いので、原盤印税と併せてアーティスト印税を支払うと定めることも多いです。要するに、まとめて支払っておくので、アーティストへの支払いはそっちでやっておいてね、ということです。
なお、印税をごまかされないために、監査条項は必ず規定しておきましょう。

 

*1:レコード会社に原盤供給をせず、プレスや流通だけを委託した場合には、さらに大きな利益を得ることができます。

*2:もちろん、ライセンス契約で許諾してもらえばいいのですが、対価を取られることがほとんどでしょう。

*3:昔と違い、いまではインディーズでも流通にそれほど支障はないですし、iTunesなどでの配信も簡単ですから、あまりメジャー流通にこだわる必要もないと言えます。

DMCA改正と“Value Gap”問題

音楽ビジネス

今回は,2016年6月21日に公開された「Dear Congress: The Digital Millennium Copyright Act is broken and no longer works for creators.」(連邦議会へ:デジタルミレニアム著作権法は破綻しており,もはやクリエイターのために機能していない。)と題する議会への公開書簡について掘り下げてみたいと思います。

 

1.公開書簡

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この書簡には,テイラー・スイフト,Maroon 5,U2などの186のアーティスト,ユニバーサル,ソニーATV,ワーナーといったメジャーレーベル,その他,BMIやASCAPなどの著作権管理団体が名を連ねています。

 

2.DMCAとは

書簡においてアーティストらは,DMCA(Digital Millennium Copyright Act)の改正を訴えています。このDMCAという法律は,米国の著作権法を改正するための法律で,2000年に施行されています。

アーティストらが問題視しその改正を訴えているのは,いわゆる「セーフハーバー条項」という規定です。「セーフハーバー条項」は,一定のルールのもとで行動する限りは,ある行為が違法とならないとする条項のことをいいます。

具体的には,ノーティス・アンド・テイクダウン(notice and takedown)がこれにあたります。ノーティス・アンド・テイクダウンとは,権利侵害を主張する者からの通知により,インターネットサービスプロバイダ*1が,アップロードされたコンテンツが権利侵害であるか否かについて実体的な判断を行わず,侵害であると主張されたコンテンツを削除するなどの措置を行うことにより,その責任を負わないこととするものです。

日本でも,プロバイダ責任制限法において類似した制度が採用されています。

 

3.DMCA改正要求の背景にある「Value Gap」問題

このような公開書簡が出された背景には,いわゆる「Value Gap(バリューギャップ)」問題があります。

このバリューギャップ問題というのは,「音楽業界に対して還元される対価が,実際に消費者によって音楽が楽しまれている量に比べて著しく低いという問題」と説明されます。このバリューギャップ問題の原因として槍玉に挙げられているのがYouTubeです。

 

音楽業界はどのようなデータに基づいてこのような主張をしているのか,IFPI*2が毎年発行している「GLOBAL MUSIC REPORT 2016」に掲載された数字を見ながら紹介します。

www.ifpi.org

まず,音楽の有料サービスの主流は,世界的にはダウンロード型からストリーミング型のサービスに移ってきており,既に40か国以上で,ストリーミングサービスによる収入が,ダウンロードサービスを上回っています。ストリーミングサービスの中心となるのは,SpotifyやAppleMusicなどのサブスクリプションサービスで,日本でも,AWAやLINE MUSICなどのサービスが始まっています。
以下のデータは,サブスクリプションサービスにおける課金ユーザーの数ですが,2012年には2000万人だったのが,2015年には6800万人となり,3年間で3倍以上の成長を遂げています。

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また,課金ユーザーの数の増加にあわせて,ストリーミングサービスによる収入も増加の一途をたどっています。

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このように,ストリーミングサービスは爆発的に成長を遂げており,音楽業界にとってレコードに替わる新たな収入源となっています。2015年には,サブスクリプションサービスの収入は20億ドルに達しています。

このように,サブスクリプションサービスをはじめとしたストリーミングサービスが市場を拡大する中,圧倒的なユーザー数を誇るのがYouTubeをはじめとした,広告モデルのサービスです。

以下の表からわかるように,サブスクリプションサービスは,6800万人のユーザーから年間20億ドルもの収入を得て音楽業界に貢献しているにもかかわらず,9億人ものユーザーがいる広告モデルのサービスからは,わずか年間6億3400万ドルしか収入を得ることができていません。f:id:gktojo:20160806051609p:plain

一例としてあげられているのが,サブスクリプションサービスの代表格であるSpotifyと,同じく広告モデルサービスの代表格であるYouTubeです。

Spotifyは1ユーザーあたり18ドルの音楽の利用の対価を支払っているのにもかかわらず,YouTubeは1ユーザーあたり1ドル以下の対価しか支払っていません。

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音楽業界は,このような広告モデルサービスが,サブスクリプションサービスに比べて支払う音楽の対価の額が少ないのは,DMCAのセーフハーバー条項にあると考えています。すなわち,セーフハーバー条項があることによって,権利侵害であるとの通知がYouTubeに出されない限り,YouTubeは違法にアップロードされたコンテンツを利用して広告料収入を得続けることができます。

YouTubeには,違法なコンテンツを自動検出するContent IDというシステムがあり,これにより,著作権侵害コンテンツが削除,収益化など適切に処理されるとされています。YouTube側は,Content IDにより楽曲の99%以上が検出され,適切に処理されていると主張していますが,IFPIは,正しく楽曲を認識しない場合が20~40%はあると主張しており,両者の主張は対立しています。

 

4.YouTubeの反論

MetallicaやMuseのマネージャーをして「やつらは悪魔(They're the Devil.)」と呼ばせるYouTubeですが,音楽業界に対する反論も行っています。 

nme-jp.com

 記事によれば,YouTubeの反論は,

  • YouTubeは今までのところ音楽業界に30億ドルを支払ってきた。
  • 音楽への消費の26%を占め,年間広告収入が約350億ドルのラジオは,米国の著作権法ではソングライターには著作権料を支払っているものの,レコード・レーベルやアーティストには支払っていない。それに比べて,YouTubeのようなデジタル・サービスはそれぞれに対して著作権料を支払っている。
  • サブスクリプションサービスの有料会員となっている20%の音楽ファンだけでなく,本来は音楽にお金を出さない,80%の「にわかファン」からも収入を得ることができるのはYouTubeのおかげである。

といったものです。

反論の1点目は,YouTubeなどの広告サービスからの支払いが「相対的に低い」ことを問題にしているのですから,あまり反論にはならないでしょう。

2点目も,納得しそうになりますが,ラジオのような非オンデマンド型サービスと,聴きたいときに好きな音楽が聴けるYouTubeのようなオンデマンド型サービスを同列に比較することはできないと思います。

3点目は,何か違法ダウンローダーの言い分のようですが,YouTubeのような場所がなくなったときに,本当に「にわかファン」は音楽にお金を出さないのかについてはいささか懐疑的です。

 

以上のように,音楽業界全体を巻き込んだDMCA改正運動の背景には,YouTubeなどのIT業界によって奪われてしまった,音楽による利益を再び音楽業界に取り戻そうという動きがあります。

Spotifyとの比較からも明らかなように,世界最大の音楽利用者であるYouTubeの支払額はあまりにも低額に映ります。また,Content IDに象徴されるとおり,YouTubeというサービスがあまりに巨大化してしまい,YouTubeが適正な情報を提供しているのか,誰も監視することができなくなっているという現状もあるでしょう。

音楽業界とYouTubeの対立は根深いものがありますが,今後どのような交渉が行われるのか注目されます。個人的には,アーティストに適正に対価が還元されるような解決となることを期待しています。

 

*1:これには,OCNなどのいわゆる経由プロバイダのみならず,YouTubeなどのコンテンツサービス提供者も含まれます。

*2:国際レコード産業連盟