音楽著作権弁護士のブログ(仮)

音楽著作権、音楽ビジネスを中心業務とする弁護士が、ウェブ上にあまり出てこない音楽著作権情報をお届けします。

JASRAC独占禁止法違反事件(前編)

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2016年9月9日、JASRACが公正取引委員会への審判請求を取り下げたという報道がありました。

www.nikkei.com

また、JASRACから取り下げについてのプレスリリースも出されています。

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

 

名実ともに、一つの事件が終わったという感じですが、この事件の歴史をここに整理しておきたいと思います。

 

1 何が問題だったのか

(1)そもそも「包括契約」とは

著作権等管理事業者の使用料規程の中には、特に音楽著作権の分野を中心に、著作権使用料を事業収入や利用場所の面積や座席数等によって一定の月額料金や年額料金を支払う形の、いわゆる「包括契約」の形をとっているケースが多くみられます。

例えば、JASRACの使用料規程においては、いわゆるライブにおける演奏の使用料について、以下のように定めています。

2 演奏会における演奏

演奏会(コンサート、音楽発表会等音楽の提供を主たる目的とする催物をいう。)に おける演奏の使用料は、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。

(1) 公演1回ごとの使用料は、次のとおりとする。

① 入場料がある場合の使用料は、総入場料算定基準額の5%の額とする。ただし、定員数に5円を乗じて得た額あるいは2,500 円を下回る場合には、そのいずれか多い額を使用料とする。

② 入場料がない場合で、かつ公演時間が2時間までの場合の使用料は、定員数に4円を乗じて得た額あるいは 2,000 円のいずれか多い額とする。 公演時間が2時間を超える場合の使用料は、30分までを超えるごとに、公演時間 が2時間までの場合の金額に、その25%の額を加算した額とする。

         (JASRAC使用料規程 平成28年3月3日届出)

以上のとおり、公演1回ごとの使用料は、入場料ベースで算定されますので、何曲使われたとしても金額は一定です。演奏すればするほど、1曲あたりの使用料は下がるという計算になります。

このように、対価の算定方法が包括的であるものを「包括徴収」といいます。

一方、1曲いくらと定められるのが「個別徴収」です。例えば、前述の演奏会における演奏のうち、入場料がない場合の個別使用料は、定員100名以下の会場については、1曲1回250円と定められています。

これとは別に、事前に使用楽曲を提出し、曲ごとに使用許諾を得る「個別許諾」と、あらかじめ管理事業者が管理する全ての楽曲の利用を包括的に許諾する「包括許諾」という概念があります。

これらの2つの概念は、組み合わせが可能で、一般的な包括契約は「包括許諾+包括徴収」ですが、「包括許諾+個別徴収」というやり方もあり得るわけです。つまり、個別許諾の場合は、申告漏れがあると違法利用になってしまいますが、包括許諾の場合は、それがないため、安心して利用できます。それとは別途、対価の定め方としては、1曲毎に精算しようが、包括的に精算をしようがどちらでもいいということになります。

この事件を正確に理解するためには、単に「包括契約」といっても、2つの概念が含まれていることに留意する必要があります。

このような包括契約は、JASRAC以外のイーライセンス、JRCといった日本の他の管理事業者のみならず、世界中において一般的に採用されていました。包括許諾の点から言えば、前述の通り、1曲ごとに許諾申請をして個別に精算を行うのは実務上非常に煩雑であることがその大きな理由です。また、包括徴収の点から言えば、音楽を大量に使う場面では、1曲いくらの個別徴収より包括徴収のほうが結果的には割安になることが多かったためです。

さて、このように、利用者にもメリットがある包括契約がなぜ問題になったのでしょうか。 

(2)イーライセンスの放送分野参入と「恋愛写真」

2006年10月にイーライセンスが放送分野に参入することになりました。イーライセンスやJRCといった新規参入事業者は、それまで管理が比較的容易な録音分野、インタラクティブ配信分野に参入していましたが、放送分野は音楽著作権管理事業の中で非常に大きなパイを占める分野ですので、その意味でも参入の必要性は高かったのだろうと考えられます。

以下は2015年度のJASRACの使用料収入の内訳ですが、放送分野の徴収額が全体の30%程度を占めていることがわかります。

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(引用:プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

 

イーライセンスは放送分野の参入にあたり、大手音楽出版社を持つエイベックスグループの協力を得て、当時ヒットが見込まれた人気アーティストの楽曲について、放送分野の管理を開始しました。その一つが、大塚愛さんの「恋愛写真」でした。 

恋愛写真

恋愛写真

  • 大塚 愛
  • J-Pop
  • ¥150
  • provided courtesy of iTunes

 当時、エイベックスは、JASRAC がダブル・タイアップやトリプル・タイアップといった、複数のタイアップによる使用料の免除を認めておらず、プロモーションの観点から不便を感じていたことや、放送使用料の分配がサンプリング報告に基づくために、分配方法が不明朗であることに不満を感じていたため、イーライセンスに権利委託することを決定したとされています*1

 

大塚愛さんの「恋愛写真」は、10月25日にリリースが予定されていたので、ちょうどイーライセンスが管理を開始する10月初旬頃から、エイベックスのプロモーターが放送局を回り、CDをかけてもらうように働きかけを始めていました。しかし、プロモーターからイーライセンスとエイベックスに対して、放送局の中にはイーライセンス楽曲を使用しないように決定しているところがあるとの報告がされることになりました。

 

なぜ「恋愛写真」が放送でかからなかったのか。

JASRACは、後の審判手続や裁判手続において、実際には他の同種の楽曲と遜色なく放送で利用されていたとデータとともに主張していました。

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(引用元:http://www.jasrac.or.jp/release/09/10_1.html

 

実際に「恋愛写真」が放送で使われたか使われなかったかはさておき、JASRACと放送局は包括契約を締結している以上、一定額を支払えば音楽は使い放題である一方で、イーライセンスとは個別契約を締結していたため、1曲使えば1回分の使用料がJASRACの使用料に追加して必要になることになります。つまり、イーライセンス楽曲を使えば、必ず使用料の総額は従来JASRACだけに支払っていた金額にアドオンされることになります。このようなアドオン構造により、放送局はイーライセンス楽曲の使用を差し控えようとすることは(実際に差し控えるかはさておき)経済原理から明らかといえます。

ヒットが見込まれる「恋愛写真」が放送において使用されないという事態を受けて、イーライセンスとエイベックスは、管理開始の10月1日から12月末日までのエイベックス楽曲の放送使用料を無料とすることを決定し、放送局に通知しました。このような決定は、放送で使われることによる音楽著作権使用料収入よりも、プロモーションが阻害されてCDの販売枚数が伸び悩むことを懸念した上での苦渋の決断であったと思われます。

結局、事態改善の見込みが立たないとして、エイベックスは12月末日をもって、イーライセンスへの楽曲の管理委託を解約し、翌年からはJASRACに権利を信託することとなりました。これにより、イーライセンスの放送分野への参入は実質的には失敗に終わりました。

このように、大塚愛さんの「恋愛写真」という、放送でかなりの回数が放送されることが見込まれる楽曲すらも放送されないという事態を受けて*2、独占禁止法上の問題が改めて浮き彫りになったものと言えます。

 

2 公正取引委員会が排除措置命令を出すまでの「歴史」

(参考年表)

  • 1899年 著作権法制定,ベルヌ条約加盟
  • 1932年 プラーゲ旋風
  • 1939年 大日本音楽著作権協会設立(JASRAC前身)、仲介業務法施行
  • 1948年 日本音楽著作権協会に改名
  • 1998年 仲介業務法の見直しについての検討開始
  • 1999年 メディア・アーティスト協会(MAA)設立
  • 2000年 イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)設立
  • 2001年 著作権等管理事業法施行、法的な独占管理時代の終焉
  • 2006年10月 イーライセンス、放送分野参入

 

以上のような話を経て、公取の立入検査、排除措置命令へと続くのですが、ここで、管理事業法成立に至るまでの歴史を簡単に整理してみましょう。

話は20世紀、ドイツがポーランドに侵攻し第二次世界大戦が勃発した年である1939年に、JASRACの前身である大日本音楽著作権協会が設立されました。当時のJASRACは、プラーゲ旋風に対抗するために国が定めた仲介業務法に基づいて設立され、国の主導の下、独占的に音楽著作権の管理業務を行っていました。これがJASRACによる音楽著作権の独占管理の時代の始まりで、2000年に著作権等管理事業法ができるまでの実に60年にわたり、日本の音楽著作権管理を行う唯一の団体として存在してきました。

しかし、20世紀も終わりに近づくと、マルチメディアコンテンツやインターネットが普及するにつれ、JASRACは迅速に使用料規程などを整備できず、デジタルにおける音楽利用について権利者、利用者のいずれからも不満が高まっていました。

当時、音楽配信やマルチメディア商品による音楽の展開に積極的だった先進的なアーティストもいましたが、JASRACは使用料規程が定まっていないことを理由として、なかなかそういった利用が認められないという状況にありました。

そんな中で、坂本龍一さんらが中心となり、メディア・アーティスト協会(MAA)*3が設立されデジタルメディアにおける著作権について、提言を行うなどの動きが始まっていました。

アーティストが立ち上がる!「メディア・アーティスト協会」発足

 

そのような時代を背景として、著作権等管理事業を自由化する「著作権等管理事業法」が成立し、2001年より施行されました*4。これにより、60年の長きにわたり続いた音楽著作権の独占管理の時代が終わることになりました。

なお、JASRACによる独占状態が長きにわたり続いていたことに鑑み、著作権等管理事業法が成立するにあたっての衆参両議院の附帯決議において、独占禁止法上の問題があることの懸念が既に示されていました。

3 著作権等管理事業者間の自由かつ公正な競争の確保、著作権等管理事業者の利用者に対する優越的地位の濫用の防止及び著作物等の利用の円滑化を図るため、公正取引委員会をはじめ関係省庁が協力して適切な措置を講ずるよう指導を行うこと。

文教委員会【第150回国会】

 

また、著作権等管理事業法施行後まもなく、著作物の1分野に管理事業者が複数存在するようになったため、既存の管理事業者の包括契約が、新規参入管理事業者の競争を阻害する要素になるとの問題が指摘されるようになっていました。

施行から2年後の2003年に公正取引委員会が発表した、「デジタルコンテンツと競争政策に関する研究会報告書」においても、

複数の著作権管理事業者が存在し、活発な競争が行われていくことが利用者にとってもメリットが大きいものであることを踏まえ、複数の著作権等管理事業者の存在を前提とした取引ルールが形成されることが望ましい。

として、管理事業者間の競争に関する懸念が示されていました。

このような背景があったうえで管理事業法が成立したわけですから、JASRACの独占禁止法上の問題は、起こるべくして起こったということができるでしょう。

次回は、公取による立入検査から事件の終結までを整理します。

 

*1:この辺りの経緯については、安藤和宏「JASRAC の放送包括ライセンスをめぐる独禁法上の問題点」に非常に丁寧に記載されています。

*2:実際に放送されたかされなかったかはさておき、少なくともエイベックスのプロモーターは「恋愛写真」が本来放送される程度には放送されていないと判断したものと思われます。

*3:MAAの発起人には、「Dの食卓」で著名な飯野賢治さんや、近年初音ミクとコラボした冨田勲さん、アーティストの佐野元春さんなどが名を連ねています。

*4:著作権等管理事業法成立の背景などについては、著作権法令研究会「逐条解説 著作権等管理事業法」(有斐閣、2001)、清野正哉「解説・著作権等管理事業法―平成13年10月施行で著作権ビジネスが変わる」(中央経済社、2001)を参照。

Merlin(マーリン)日本事務所開設

先日、Merlinの日本事務所が開設されるとの報道がありました。

www.musicman.co.jp

また、Merlin本部のウェブサイトにおいても、日本事務所の開設についてのリリースがされています。

merlinnetwork.org

1.Merlinとはどんな団体なのか

Merlinは、2007年に設立された比較的歴史の浅い非営利の国際団体で、本部はアムステルダムにあります。

まず、Merlinとは何をしている団体なのでしょうか。

簡単にいうと、Merlinは原盤の権利についてレーベルから委託を受けて、音楽配信サービスにライセンスをする業務を行っている団体です。 

最近日本でもSpotifyがサービスを開始しましたが、昨年始まったAWAやLINE Musicとともに、日本でも多くのサブスクリプションサービスが展開されるようになりました。 Merlinはこれらの音楽配信サービスに対して、原盤のライセンスをし、使用料を徴収し、レーベルに分配しています。

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もちろん、個々のレーベルとそれらの音楽配信サービスとの間で直接契約を締結してライセンスすることも可能で、実際に直接契約しているレーベルも多数あります。 

Merlinはこのようなサービスを提供していますが、近年急成長を遂げており、実に240億円以上の使用料が既にMerlinを経由してレーベルに分配されています。Merlinには700以上のメンバーがいますが、それにはアグリゲーターなども含まれていますので、レーベル数で言えば20000を超えているとされています。

それでは、なぜMerlinを経由してライセンスをする必要があるのでしょうか。

 

2.Merlinは何のためにあるのか

YouTubeを始めとする世界的な音楽配信サービスは、圧倒的な交渉力を利用して、レーベルにとって極端に不利な契約を結ぼうとすることも少なくありませんでした。
特に、三大メジャーを除くインディーズレーベルはほとんど交渉力がない場合が多く、不利な契約をやむなく締結せざるを得ないという状況もありました。

以下は、主にAmazonの契約に関する記事ですが、音楽配信サービスにおいても類似した状況がありました。

nlab.itmedia.co.jp

このような状況で、インディーズレーベルが権利を持っている原盤を多数集めてバルクでライセンスをすることによって交渉力を高め、YouTubeを始めとした巨大な音楽配信サービスに、条件面で対抗していこうというのがMerlinの目的です。

音楽配信サービスとの交渉をMerlinが行うことにより、Merlinのメンバーはより好条件でのそのサービスに原盤を提供することができることになります。

Merlinと音楽配信サービスとの間の契約内容は、Merlinのメンバー以外には開示されていませんが、Merlinが急成長を遂げていることからも、インディーズレーベルが個別に交渉するより好条件となっていることは想像に難くありません。

また、単なる条件面でのメリットのみならず、Merlinが音楽配信サービスとの契約交渉を行ってくれるため、個別のサービスと契約交渉を行わなくてよいという、契約コストが削減できるというメリットもあります。

Merlinは、YouTubeやSpotifyを始めとした世界的にメジャーなサービスを始めとして、AWAといった日本のサービスにもライセンスを行っており、今後ライセンス先は増加していくものと思われます。

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3.日本事務所開設の意義

Merlinのアムステルダム本部以外の事務所開設は、ロンドン、ニューヨークに次いで、東京が3番目となります。東京事務所の代表は、日本の音楽業界を知り尽くしている谷口さんです。

日本が世界有数のインディーズ大国であることはすでに紹介したとおりです*1。ほとんどの海外発の音楽配信サービスは、英語での契約締結が必要であることからも、日本のインディーズレーベルが、海外の音楽配信サービスと交渉して、よい条件を勝ち取るのは相当な困難であるという状況でしたし、現時点でもそうでしょう。

そのような意味で、日本のレーベルがMerlinに権利委託を行うメリットは大きかったものと思われます。Merlinは、日本事務所の開設以前から日本のレーベルの権利委託を受け入れていますが、そのMerlinとの連絡や契約締結は英語で行う必要がありました。その意味では、契約締結時のみならず契約後のサポートに関しても、不安が残るという状況であったかもしれません。

しかし、日本窓口ができることにより、それらのハードルが解消され、日本のレーベルが持っている音源を、よりカジュアルに世界中で配信できるでしょう。

Merlinを通してライセンスを行えば、個別のハードな交渉を経ずとも、世界中でサービスを展開している音楽配信サービスで楽曲を配信することができます。音楽不況が叫ばれて久しいですが、世界中から薄く広く使用料を徴収することにより、アーティストが音楽活動をより充実させることも可能になるでしょう。また、これまで聴かれるチャンスすらなかった楽曲が、サブスクリプションサービスを通じて世界中に配信されることで、日本のアーティストの楽曲が異国の地で突然ヒットする、という可能性もゼロではないと思います。

このように、Merlinの日本事務所開設によるMerlinの周知は、多くのレーベルとアーティストにとって、大きなメリットとなると思われます。

*1:韓国もインディーズ大国ですので、Merlinがアジア地域を重視するのももっともでしょう。

原盤供給契約

以前のエントリでは、原盤に関する契約として、共同原盤契約について紹介しましたが、今回は、原盤供給契約に関する解説をします。 

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1 概要 ~そもそも原盤供給契約って

共同原盤契約は、原盤を共同して制作し、原盤に関して発生するレコード製作者の権利も共有になるのですが、通常は全てレコード会社に権利が譲渡されるという契約であることは以前のエントリでも説明したとおりです。
まず、原盤供給契約は、このような原盤の制作に関する契約とは異なり、既にある原盤をレコード会社等にライセンスする契約であるという意味で、その性質が異なっています。

共同原盤契約においては、その原盤に関する権利はレコード会社に移転してしまう一方で、原盤供給契約は単なるライセンスですので、レコード製作者の権利などの権利はライセンサーである原盤供給者に留保されたままとなっています。

また、共同原盤契約においては、権利譲渡の対価として原盤印税が支払われますが、原盤供給契約においては、ライセンス(利用許諾)の対価として、原盤印税が支払われます。原盤印税の相場としては、13~16%程度でしょうか。

原盤供給契約は、原盤を自らの費用で製作しなければならないという点がデメリットではありますが、制作費を負担するというリスクを負えば、それがヒットした場合には大きなリターンを得ることができます。
しかし、最近は、パッケージメディアの売上減少や、コンピュータの利用によって原盤制作費はかなり下がっており、1曲あたり数十万程度で原盤を制作することができますので、原盤制作費を負担するというデメリットはそれほど大きくなくなっているのが実情です。

以上のように、共同原盤契約において原盤制作費を50%ずつ負担するのは、映画やアニメなどの制作委員会方式にも似たリスク回避の側面がある一方で、原盤供給契約は、そのリスクを全て負担することにより、大きなリターンを得ることができます*1。したがって、ヒットが見込めるアーティストを抱えるプロダクションにおいては、自ら原盤制作費を負担し、レコード会社に原盤供給するという方法を取ることが多いです。

さらに、原盤供給契約には、ライセンスを終了できるというメリットがあります。ほとんどのレコード会社の契約書においては、その譲渡期間は、著作隣接権の存続期間満了までとされています。共同原盤契約において、譲渡期間を定めることができないというわけではないのですが、一般的に大手のレコード会社はその点の契約書の修正にほとんど応じないため、実質的に、共同原盤契約とする以上は、たとえ50%の制作費を負担して原盤を制作したとしても、その権利自体を取り戻すことはほとんど不可能と言えます。

一方で、原盤供給契約は単なるライセンスなので、契約期間さえ定めておけば、契約はその期間で終了し、原盤権を持っているプロダクション、アーティストとしては、より条件のよい他のレコード会社などからその原盤を使ったレコードをリリースすることができるようになります。

なお、たまに原盤供給契約にもかかわらず、契約期間中は原盤をレコード会社に期限付で譲渡するという条項をひっそりと提案してくるレコード会社もありますが、原盤を供給する側としてはそれに応じるメリットはなく、あくまでレコード会社の都合ということになります。

 ---------------------以下は愚痴になります。---------------------

これはかなりマニアックな話ではありますが、本来レコード製作者の権利に基づいて分配される商業用レコードの二次使用料などの隣接権使用料について、原盤供給者は受け取ることができません。なぜか、単に原盤を供給されている、ライセンシー側のレコード会社が全部持っていくという慣習になっています。この使用料は、レコード協会を通じて分配を受けることになるので、レコード協会に加盟していない単なる原盤供給者は分配を受けることができません。レコード協会加盟のレコード会社から、手数料を控除してでも分配してくれてもよさそうなものですが、一切分配しないのが慣習です。なお、分配しないことについて合理的な理由も不明です。

そもそも隣接権使用料の分配のシステムなどに問題があるのかもしれませんが、レコード会社中心の理解不可能なルールの1つです。

 

(参考:隣接権使用料の分配の流れ)

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(引用 一般社団法人日本音楽制作者連盟「音楽主義」)

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2 原盤供給契約の具体的な条項について

原盤供給契約においては、具体的には以下のような事項を定めます。

(1) 原盤の使用許諾範囲

共同原盤契約においてはレコード会社に全ての権利が譲渡されることが一般的ですので、使用範囲を制限するのはなかなか容易ではありません。しかし、原盤供給契約は単なるライセンスですので、例えば配信限定の利用とか、サブスクリプションサービスには許諾を出さないとか、さまざまな条件を付けやすいといえます。

(2) 原盤の制作費

原盤供給者が負担すると明記されます。
なお、忘れがちなのがジャケットの権利です。原盤供給契約においては、ジャケットをどちらが費用を負担して制作するのか、権利はどちらにあるのかはしっかりと決めておくようにしましょう。ちなみに、せっかく原盤供給契約であっても、ジャケットの権利がレコード会社にある場合は、契約終了後はそのジャケットを使えなくなってしまいますので*2、供給する側で製作して権利を保有しておくことが望ましいでしょう。

(3) 契約期間

原盤供給契約のキモとなる契約期間です。期間の設定もさまざまですが、3年程度の短期から10年といった長期にわたり設定されることもあります。原盤供給する側としては、いつでも契約を終了できること自体がメリットですから、期間は短い方がよいでしょう*3

また、原盤供給契約にはセルオフ期間が定められるケースがほとんどです。セルオフ期間とは、契約期間中に製造したCD等の在庫について、一定期間は販売することができるとする規定です。期間は半年程度が一般的でしょう。もちろん、この期間に販売されたCDからも印税が発生します。
なお、在庫がない配信についても配信停止手続にかかる期間として謎のセルオフ類似の猶予期間を設定されるケースもありますが、実際に中止されるかはさておき、配信の中止手続き自体は契約終了と同時にできるはずですので、「契約終了と同時に配信の中止手続きを行うこと」「実際に中止されたら通知すること」という2つの条件を要求しておきたいところです。

(4) 対価

印税率を定めます。前述のとおり、13~16%程度が多いものと思われます。配信の場合はこの倍程度でもおかしくはないでしょう。また、原盤供給側は、プロダクションなどのアーティストサイドであることも多いので、原盤印税と併せてアーティスト印税を支払うと定めることも多いです。要するに、まとめて支払っておくので、アーティストへの支払いはそっちでやっておいてね、ということです。
なお、印税をごまかされないために、監査条項は必ず規定しておきましょう。

 

*1:レコード会社に原盤供給をせず、プレスや流通だけを委託した場合には、さらに大きな利益を得ることができます。

*2:もちろん、ライセンス契約で許諾してもらえばいいのですが、対価を取られることがほとんどでしょう。

*3:昔と違い、いまではインディーズでも流通にそれほど支障はないですし、iTunesなどでの配信も簡単ですから、あまりメジャー流通にこだわる必要もないと言えます。

DMCA改正と“Value Gap”問題

今回は,2016年6月21日に公開された「Dear Congress: The Digital Millennium Copyright Act is broken and no longer works for creators.」(連邦議会へ:デジタルミレニアム著作権法は破綻しており,もはやクリエイターのために機能していない。)と題する議会への公開書簡について掘り下げてみたいと思います。

 

1.公開書簡

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この書簡には,テイラー・スイフト,Maroon 5,U2などの186のアーティスト,ユニバーサル,ソニーATV,ワーナーといったメジャーレーベル,その他,BMIやASCAPなどの著作権管理団体が名を連ねています。

 

2.DMCAとは

書簡においてアーティストらは,DMCA(Digital Millennium Copyright Act)の改正を訴えています。このDMCAという法律は,米国の著作権法を改正するための法律で,2000年に施行されています。

アーティストらが問題視しその改正を訴えているのは,いわゆる「セーフハーバー条項」という規定です。「セーフハーバー条項」は,一定のルールのもとで行動する限りは,ある行為が違法とならないとする条項のことをいいます。

具体的には,ノーティス・アンド・テイクダウン(notice and takedown)がこれにあたります。ノーティス・アンド・テイクダウンとは,権利侵害を主張する者からの通知により,インターネットサービスプロバイダ*1が,アップロードされたコンテンツが権利侵害であるか否かについて実体的な判断を行わず,侵害であると主張されたコンテンツを削除するなどの措置を行うことにより,その責任を負わないこととするものです。

日本でも,プロバイダ責任制限法において類似した制度が採用されています。

 

3.DMCA改正要求の背景にある「Value Gap」問題

このような公開書簡が出された背景には,いわゆる「Value Gap(バリューギャップ)」問題があります。

このバリューギャップ問題というのは,「音楽業界に対して還元される対価が,実際に消費者によって音楽が楽しまれている量に比べて著しく低いという問題」と説明されます。このバリューギャップ問題の原因として槍玉に挙げられているのがYouTubeです。

 

音楽業界はどのようなデータに基づいてこのような主張をしているのか,IFPI*2が毎年発行している「GLOBAL MUSIC REPORT 2016」に掲載された数字を見ながら紹介します。

www.ifpi.org

まず,音楽の有料サービスの主流は,世界的にはダウンロード型からストリーミング型のサービスに移ってきており,既に40か国以上で,ストリーミングサービスによる収入が,ダウンロードサービスを上回っています。ストリーミングサービスの中心となるのは,SpotifyやAppleMusicなどのサブスクリプションサービスで,日本でも,AWAやLINE MUSICなどのサービスが始まっています。
以下のデータは,サブスクリプションサービスにおける課金ユーザーの数ですが,2012年には2000万人だったのが,2015年には6800万人となり,3年間で3倍以上の成長を遂げています。

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また,課金ユーザーの数の増加にあわせて,ストリーミングサービスによる収入も増加の一途をたどっています。

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このように,ストリーミングサービスは爆発的に成長を遂げており,音楽業界にとってレコードに替わる新たな収入源となっています。2015年には,サブスクリプションサービスの収入は20億ドルに達しています。

このように,サブスクリプションサービスをはじめとしたストリーミングサービスが市場を拡大する中,圧倒的なユーザー数を誇るのがYouTubeをはじめとした,広告モデルのサービスです。

以下の表からわかるように,サブスクリプションサービスは,6800万人のユーザーから年間20億ドルもの収入を得て音楽業界に貢献しているにもかかわらず,9億人ものユーザーがいる広告モデルのサービスからは,わずか年間6億3400万ドルしか収入を得ることができていません。f:id:gktojo:20160806051609p:plain

一例としてあげられているのが,サブスクリプションサービスの代表格であるSpotifyと,同じく広告モデルサービスの代表格であるYouTubeです。

Spotifyは1ユーザーあたり18ドルの音楽の利用の対価を支払っているのにもかかわらず,YouTubeは1ユーザーあたり1ドル以下の対価しか支払っていません。

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音楽業界は,このような広告モデルサービスが,サブスクリプションサービスに比べて支払う音楽の対価の額が少ないのは,DMCAのセーフハーバー条項にあると考えています。すなわち,セーフハーバー条項があることによって,権利侵害であるとの通知がYouTubeに出されない限り,YouTubeは違法にアップロードされたコンテンツを利用して広告料収入を得続けることができます。

YouTubeには,違法なコンテンツを自動検出するContent IDというシステムがあり,これにより,著作権侵害コンテンツが削除,収益化など適切に処理されるとされています。YouTube側は,Content IDにより楽曲の99%以上が検出され,適切に処理されていると主張していますが,IFPIは,正しく楽曲を認識しない場合が20~40%はあると主張しており,両者の主張は対立しています。

 

4.YouTubeの反論

MetallicaやMuseのマネージャーをして「やつらは悪魔(They're the Devil.)」と呼ばせるYouTubeですが,音楽業界に対する反論も行っています。 

nme-jp.com

 記事によれば,YouTubeの反論は,

  • YouTubeは今までのところ音楽業界に30億ドルを支払ってきた。
  • 音楽への消費の26%を占め,年間広告収入が約350億ドルのラジオは,米国の著作権法ではソングライターには著作権料を支払っているものの,レコード・レーベルやアーティストには支払っていない。それに比べて,YouTubeのようなデジタル・サービスはそれぞれに対して著作権料を支払っている。
  • サブスクリプションサービスの有料会員となっている20%の音楽ファンだけでなく,本来は音楽にお金を出さない,80%の「にわかファン」からも収入を得ることができるのはYouTubeのおかげである。

といったものです。

反論の1点目は,YouTubeなどの広告サービスからの支払いが「相対的に低い」ことを問題にしているのですから,あまり反論にはならないでしょう。

2点目も,納得しそうになりますが,ラジオのような非オンデマンド型サービスと,聴きたいときに好きな音楽が聴けるYouTubeのようなオンデマンド型サービスを同列に比較することはできないと思います。

3点目は,何か違法ダウンローダーの言い分のようですが,YouTubeのような場所がなくなったときに,本当に「にわかファン」は音楽にお金を出さないのかについてはいささか懐疑的です。

 

以上のように,音楽業界全体を巻き込んだDMCA改正運動の背景には,YouTubeなどのIT業界によって奪われてしまった,音楽による利益を再び音楽業界に取り戻そうという動きがあります。

Spotifyとの比較からも明らかなように,世界最大の音楽利用者であるYouTubeの支払額はあまりにも低額に映ります。また,Content IDに象徴されるとおり,YouTubeというサービスがあまりに巨大化してしまい,YouTubeが適正な情報を提供しているのか,誰も監視することができなくなっているという現状もあるでしょう。

音楽業界とYouTubeの対立は根深いものがありますが,今後どのような交渉が行われるのか注目されます。個人的には,アーティストに適正に対価が還元されるような解決となることを期待しています。

 

*1:これには,OCNなどのいわゆる経由プロバイダのみならず,YouTubeなどのコンテンツサービス提供者も含まれます。

*2:国際レコード産業連盟

「ListenRadio(リスラジ)」事件について

今回は,音楽ビジネスの話ということで,「リスラジ事件」判決を紹介することにします。

東京地判平28.6.8 地位確認請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/947/085947_hanrei.pdf

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http://listenradio.jp/

 1.前提知識,訴訟に至る経緯

「リスラジ」の正式名称は「ListenRadio」で,「music.jp」などの音楽配信サービスを運営するMTIが提供しているインターネットラジオサービスです。このサービスでは,インターネットを通じて,日本全国のコミュニティFMラジオ局の放送を聴くことができます。

listenradio.jp

なお,「コミュニティ放送」とは,放送法施行規則別表第5(注)10において,

「コミュニティ放送」とは、一の市町村の一部の区域(当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接する場合は、その区域を併せた区域とし、当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、かつ、当該隣接する区域が他の市町村の一部の区域に隣接し、住民のコミュニティとしての一体性が認められる場合には、その区域を併せた区域とする。)における需要に応えるための放送をいう。 

と定義されています。要するに,市町村レベルの地域に限って放送する,地域密着の小規模な放送局ということになります。その性質上,防災放送などに利用されることも期待されています。

このように,コミュニティFMを含むコミュニティ放送は,やや特殊な位置づけにあるといえます。

また,本件で被告となった「レコード協会(通称「レ協」「レコ協」)」は,レコード会社が組織する団体で,レ協の会員社が保有するレコード製作者の権利の一部を管理しています。

レコード協会の,管理委託契約約款においては,コミュニティ放送によるレコードの利用に関する権利も,レ協の管理対象となる旨が定められています。

(レコードの管理委託の範囲)
第3条 レコード管理委託者は、受託者に対し、本契約の期間中、その有するすべてのレコードの著作隣接権及び将来取得するすべてのレコードの著作隣接権について以下の各号に定める管理を委託し、受託者はこれを引き受ける。

(1) 省略

(2) 下記利用方法に関するレコードの送信可能化権(省略)及び複製権の管理
ア 次に掲げるレコードを録音した放送番組等(以下単に「番組」という。)を、放送と同時に自動公衆送信装置に入力する方法により送信可能化すること(ただし、受信先の記憶装置に複製させない形式に限る。)。
① 省略
② コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組(コマーシャルを除く。)
(以下省略)

このようなレ協の管理する権利に基づき,コミュニティFM局はレ協から,レ協の管理するレコードを録音した番組をインターネット配信することについて,許諾を受けていました。

しかし,リスラジのある機能を利用したレコードの利用について,レ協が異議を唱えました。問題視したのは,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルという機能です。このサービスは,リスラジのザッピング機能を使用することにより,各コミュニティFM局が流す音楽番組(1時間番組)だけを,次々とザッピング視聴することにより,24時間連続して配信されるという機能です。

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(判決より引用)

 

つまり,コミュニティFMの同時再送信,という体でありながら,24時間音楽だけを自動的に流すことができるような,いわばインターネットラジオサービスのような機能があったわけです。

レ協としては,このような利用を快く思わず,リスラジの「おすすめ番組まとめ」でザッピングされる番組の配信を停止しない限り,レコードの利用許諾と停止するよ,と求めたところ,コミュニティFM側がこれに反発して訴訟を提起したのが本件訴訟です。

普通は,利用の停止を求めるレ協側が楽曲使用の停止などを求めて提訴するのでしょうが,本件は停止を求められているコミュニティFM側が訴訟に打って出るという,いささか異例のものでした。

なお,この訴訟に先立ち,コミュニティFM側は,レコードの利用許諾についての契約上の地位を仮に定めることを求め,東京地裁に対して仮処分命令の申立てを行っていました*1

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 2.結論

裁判所はコミュニティFM側の主張を退け,レ協の管理するレコードを録音した番組をインターネット配信することについての許諾契約は,レ協の更新拒絶により終了しているとしました。 

3.争点

判決において,争点は4つ挙げられていますが,実質的な争点は最初の争点だけであると言ってよいでしょう。

  • レ協の本件更新拒絶は,管理事業法16条にいう「正当な理由がなく」利用の許諾を拒んでいるものとして無効(民法90条)といえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,信義則に反し,無効であるといえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,「共同の取引拒絶」(独禁法19条,2条9項1号イ又は同項6号イ,一般指定1項)又は「その他の取引拒絶」(独禁法19条,2条9項6号イ,一般指定2項)に該当するため,無効(民法90条)といえるか
  • レ協の本件更新拒絶は,「取引条件等の差別的取扱い」(独禁法19条,2条9項6号イ,一般指定4項)に該当するため,無効(民法90条)といえるか

4.結論に至る理由

裁判所は,結論に至る理由としてさまざまな点を挙げていますが,簡単に言ってしまえば,形式的にはコミュニティFM番組の同時再送信として音楽を配信しているものの,実質的にはMTIが24時間音楽を配信するサービスを提供するために行われているものであることを理由としています。

具体的には,

  • コミュニティFM局の依頼によって制作された音楽番組であると言いつつ,放送番組データをMTIの管理する管理システムにだけ提供していること。
  • リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルを通じて本件各音楽番組を連続して視聴すると,例えば,Aの放送時間枠(午前11時から12時)の午前11時直前に地域店舗のCMを入れ,直前の放送時間枠を有している放送局Bは,放送時間枠(午前10時から午前11時まで)の午前11時まで音楽を流すように編成することで,Aコミュニティ放送局の放送地域に所在する地域店舗のCM(午前11時直前に放送されているもの)は放送されず,そのまま午前11時にA放送局に切り替わることによって,A放送局の地域店舗のCMが放送されないよう巧妙に編成されていること。
  • CSRA*2事務局が,宮崎サンシャインエフエムに対し,番組内容と放送日は合致することが重要であること,放送内容が異なった番組について番組枠料は減額とすること,今後は,データの運行については,MTIとCSRAにデータ運行が完了した段階で報告することなどを依頼し,これに対し,宮崎サンシャインエフエム従業員がCSRA事務局に宛てて謝罪し,今後は,MTIとCSRAにデータ運行完了を報告する旨約していることなどのやりとりがされたメールが存在していること。
  • 地域の災害に見舞われ,リスラジにおいて自己に割り当てられた放送枠の中で,地域で起こった災害情報を放送しなければならない際に,事前にCSRAに宛てて,災害に関するお知らせを放送することに理解を求めるメールを送り,今後はどういう対処をとるべきかなどの指示を求めている非営利活動法人ディ(あまみエフエム)のメールが存在していること*3

といった点を指摘し,リスラジの「おすすめ番組まとめ」チャンネルにおいて配信される番組は,「ザッピング機能を使用して,音楽番組のみ継続して聴くことを希望する全国のユーザの需要に応えることを主要な目的とするMTIの発意によるMTIが責任を有するチャンネル」と結論付けています。

また,このように,これらの番組が「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組」に該当しない以上,コミュニティFMの配信利用は,レ協が管理の委託を受けている,「コミュニティ放送事業者が自ら制作し放送するラジオ番組」を「放送と同時に自動公衆送信装置に入力する方法により送信可能化すること」の範囲外となり,そもそもレ協が利用許諾することができる権限を有する範囲外の利用であるとしています。

5.判決を受けて

コミュニティFM各社は判決を不服として控訴したようです。

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本件訴訟は,訴訟当事者にこそなっていないものの,実際はMTIの代理戦争のように思われます。本来,音楽配信サービスを営むにあたっては,JASRACやNexToneといった著作権管理事業者と交渉することはもちろんですが,原盤権を保有するレーベル各社と交渉して,利用の対価について合意する必要があります。日本に音楽配信サービスがなかなか参入できないのは,原盤権を保有するレコードレーベルとの間で条件の合意に至るのが難しいというのが最大の原因です。

そのような状況において,この判決では,MTIがコミュニティFMの同時再送信を利用して,比較的低額な原盤使用料でラジオ型の音楽配信サービスと同等のサービスを実現しようとしたと解されたとしてもやむを得ない事情が指摘されています。

個人的に,こういった著作権法の抜け穴を探すのは知的探求としては興味深いのですが,本件ではレ協の約款や契約書の文言から,抜け穴ではないところを抜け穴として通っていると判断されたのでしょう。

なお,本件は,著作権等管理事業法16条の解釈について言及されていますが,同法の立法担当者の見解を踏襲しており,特段の目新しさはありません。

 

*1:リリースを見る限り,コミュニティFMによれば,レ協の主要メンバーであるソニー・ミュージック・エンタテインメントが「Music Unlimited」や「LINE MUSIC」などの音楽配信サービスを行っており,これらと競合するリスラジのサービスを潰しにきたのだ,と言いたいようです。

*2:コミュニティ放送局同士がアライアンスを組む任意団体

*3:災害に関する情報をコミュニティ放送局が放送することは,本来CSRAやMTIなどに承諾を求めるべき事項とはいえず,コミュニティ放送局の独自の判断で放送すべき事項であるにもかかわらずMTIなどに指示を仰ぐのは,番組制作が事実上MTIの管理下にあることを示しているということです。

アーティストが知っておくべき「お金」の知識

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前回のエントリからだいぶ間が空いてしまいました。

このエントリではアーティストとお金の関係について整理していきます。

アーティストがその活動からどうやって対価を得ていくかについては,いろいろなパターンがありますが,アーティストにはどのような権利があって,それについてどんな対価が発生するのかを理解することが重要です。

まず,アーティストがその活動の対価を得る方法は,大きく2つに分けられます。

1つは,事務所から固定の専属料の支払いを受ける方法,もう1つは,さまざまな活動に応じて歩合制で対価の支払いを受ける方法です。また,これらを組み合わせた,固定給+歩合制,というパターンもあります。 

アーティストが事務所を通さず自分で活動する場合は,歩合制の割合が100%になると考えてください。

1 固定給

固定給は,新人バンドなどに多いパターンです。新人のうちは,歩合制にしてしまうと,月々の収入が安定しないため,生活が苦しくなってしまう場合があります。

そのような場合に,事務所がリスクをとって,一定の金銭を支払うのがこのパターンです。契約期間中は,毎月の収入が保証されることになりますので,生活のプランが立てやすく,金銭面でのプレッシャーが少ないというメリットがありますが,その一方で,バンド活動による収入が伸びているのか,下がっているのかがわからず,活動方針をどう定めてよいかわかりにくくなるというデメリットもあります。もちろん,売れてきたバンドなどの場合は,歩合にした方が純粋に手元に入る金額が大きくなるという場合もありますので,それもデメリットと言えます。

固定給の場合は,2で述べるようなアーティストの活動により得られた金銭がその原資となることが多いです。その他,レコード会社などから支払われる育成金が原資となる場合もあります。いずれにせよ,固定給を支払うにも原資が必要ですから,アーティスト印税など,レコードの販売枚数などに応じた対価は,全て事務所が取得し,アーティストには直接は分配されないことも多いです。

ただし,固定給の場合であっても,JASRACやNexToneから支払われる音楽著作権使用料については,代表出版社が代表出版社取分を控除した上で,作詞や作曲をしたアーティストに分配する例も多いようです。

その意味では,純粋に固定給だけ,という場合はそれほど多くないと言えるかもしれません。

2 歩合制

歩合制の場合は,さまざまな活動や権利ごとに,事務所とアーティストの取分が設定されることになります。アーティストが獲得できる金銭には,以下のようなものがあります。

(1)実演の対価

  • アーティスト印税

アーティストには,歌唱や演奏をすることで,実演家の権利が発生します。したがって,アーティストの実演を収録した原盤が利用される場合には,レコード会社からいわゆるアーティスト印税が支払われるのが一般的です。これは,CDなどのレコードだけでなく,音楽配信も対象となります。

アーティスト印税の相場としては,CDなどの商品の小売価格の1%程度(3000円とすると,30円)が一般的です*1。バンドなどの場合には,全員で1%となることが多く,4人編成のバンドでは,一人あたり0.25%(7.5円),選抜メンバーが16人のAKBの原盤では,0.063%(1.89円)となります*2

  • ライブ出演料

また,ライブ活動についても対価が発生します。1本あたりいくら,と決める場合もありますし,アーティストによっては,ライブによって得た利益(チケット販売収入ー制作経費などの諸経費)を,事務所と分配するというケースもあります。

  • 報酬請求権

これはあまり耳慣れないかもしれませんが,実演家には,商業用レコードの二次使用料,貸与報酬,私的録音録画補償金といった報酬等の分配を受ける権利を有しています。これらの内容の詳細については別エントリで解説しますが,これらの報酬等は,これらの報酬等を分配する団体に所属しなければ分配が受けられません。ミュージシャンであれば,事務所が音事協音制連といった団体に所属していれば事務所経由で受け取ることができます。また,事務所に所属していないアーティストも,MPNといった個人加入も受け付けている団体であれば,報酬等を受領することができます。

これらのお金は,実演が利用されれば定期的に入ってくるお金ではありますが,団体に所属しないと受け取ることができず消えていってしまうものです。また,報酬請求権について知識があるアーティストは少ないので,事務所からその存在を知らされず,全く分配を受けていないケースもあります。 

(2)著作の対価

  • 音楽出版

アーティストにとっての著作の対価と言えば,やはり作詞・作曲による対価でしょう。これは,JASRACやNexToneといった著作権管理事業者から入金されるのが一般的です。

先日のエントリでも紹介しましたが,代表出版社との間でMPA書式による著作権譲渡契約が締結されることによって,著作権の譲渡が行われます。代表出版社が所属事務所の場合もありますし,そうでない場合もありますが,出版社取分は全体の3分の1か2分の1であることがほとんどです。

著作の対価については,バンドなどによってその扱いに差がありますが,バンド名義の作詞・作曲として,メンバーに均等に分配している例もあれば,実際に作詞・作曲を行ったメンバーが総取りする例もあります。いずれの分配方法とするにせよ,メンバー間でよく話し合って決めないと,思いがけずトラブルとなることもあります。

  • 小説,エッセイなどの執筆

それ以外の著作の対価としては,書籍の執筆などがあります。辻仁成さんから星野源さんまで,ミュージシャンでありつつ作家として活躍する方もたくさんいらっしゃいます。この場合は,楽曲の制作に比べてより個人的な創作物でしょうから,仮にバンドのメンバーであったとしても,執筆を行ったメンバーが総取りすることになるでしょう。 

(3)パブリシティ権の対価

  • 物販

まず,Tシャツやタオルなどの物販商品の対価がこれにあたります。物販商品が1個売れるごとに,販売価格のXX%と定める場合もありますし,売上から経費を控除した利益を一定割合で分配するという場合もあります。

新人バンドなどは,グッズを手売りする場合も多いので,物販で歩合制を採用すると,手応えを実感できるようになり,アーティストのモチベーションもアップするでしょう。

  • ファンクラブ収入

また,物販以外に,ファンクラブ収入もあります。ファンクラブは,年会費や月額課金によって,ユーザーから対価を徴収しますが,これらもアーティストに分配されるべき金銭です。ウェブサイトの運用費などの経費を控除した利益を,事務所とアーティストで分配することが多いでしょう。

  • CM出演

これ以外にも,コマーシャルに出演した場合にも出演料などが支払われますが,これについても事務所とアーティストで分配することが多いでしょう。福山雅治さんやトータス松本さんが,ビールのCMに出演していますね。

CMの出演については,契約金という名目でまとまった金銭が支払われることが一般的です。それに加えて,スチールの撮影やテレビCMの撮影ごとに,追加の出演料が支払われるのも一般的です。

  

このようなアーティスト活動にまつわるお金の知識は,事務所と契約する際,条件交渉する際,また,契約が終了する際には必須の知識です。

仮に,固定給での支払いであったとしても,アーティストがレコードや物販の売上を自ら把握することで,何がファンに受け入れられ,何にファンがお金を支払ったのかを知る一助となります。

このような知識はアーティストの活動に必ず寄与するものですので,頭の片隅に入れておいて損はないでしょう。

*1:ただし,この数字が妥当かについて,個人的には疑問があるところです。

*2:おそらく固定給で,実際に歌唱したメンバーで均等割しているわけではないでしょうが。

アーティストが契約を結ぶ前に知っておくべきポイント

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ライブハウスなどで活動をしているバンドマンには、インディーズ志向が広まった現在においても、「メジャーデビュー」を目標に掲げているバンドマンも多いのではないでしょうか。

 1.「メジャー」とは

そもそも、「メジャー」とは何でしょうか。これは、日本と日本以外の国では少し意味が違っています。「メジャーレーベル」は、シェアの大きなレコード会社を指しますが、世界的には、ユニバーサル、ソニー、ワーナーを三大メジャー*1といい、これ以外は全てインディーズと認識されています。

 一方で、日本では、一般社団法人日本レコード協会に加盟しているレコード会社を「メジャー」と呼んでいます。したがって、日本ではエイベックスも、トイズも、コロムビアも「メジャー」ですが、世界的には、「インディーズ」であり、強いて言えば「ローカルメジャー」なわけです*2

 一般的に、これらの「メジャー」レコード会社と契約すると、全国各地に広く流通されることになるため、今までは「メジャーデビュー」指向が強かったのかもしれません*3

 

2.アーティストの「契約」

さて、いざデビューとなると、アーティストはレコード会社やプロダクションと契約を締結することが一般的です。また、デビューまで至らずとも、育成契約などの名目で、レコード会社やプロダクションが契約書を提示してくることがあります*4

 多くの若いアーティストは、「契約」という言葉に舞い上がって、専属料や育成金がいくらもらえるのかだけ確認して、その他の中身は何でもいいからサインしてしまうのではないでしょうか。年齢的にも、知識的にも、ここをこうしてくれ、とは言い難い雰囲気があると思います。

 もちろん、ワガママが通るトップクラスのアーティストではないわけですから、弁護士を間に立てて、あまりにも過剰に、ここをこうしてくれ、こういう条件はイヤだ、などと契約交渉をしようものなら、「使いにくい」「面倒」という印象を持たれることになってしまい、「それじゃもういいです」と契約すら流れてしまいかねません。

 新人アーティストの契約は、交渉ができないことが多いですが、少なくとも「契約を終わらせることができるか」という点、つまり契約期間と契約の終了方法については確認しておくとよいでしょう。これは、契約条件が多少マズくても、ある程度の期間で終了させることができれば、アーティストが力をつけてきた場合に新たに条件の変更など、契約交渉のチャンスが得られるからです。

(1)ポイントその1 契約期間

契約期間について定めた条項はいくつかあるのが一般的ですが、まず1点目は、契約期間がいつからいつまでかを確認します。例えば、2016年●月●日から1年間、とか、2016年●月●日〜2017年●月●日まで、と具体的に記載されています。1年間や2年間であればまぁ妥当という感じもしますが、5年以上になってくると、本当にその5年間をその条件でそのレコード会社やプロダクションと過ごしてよいのか、よく検討する必要があるでしょう。

例えば、18歳のアイドルが5年契約をする場合、18-23歳という、アイドルとしては非常に重要な時間をその契約のもとで過ごすことになります。1年契約であれば、この事務所やレーベルはマズイなと思った場合に、早期に契約を終了させることができます*5

また、契約書によっては、仮にアーティスト側から契約の解除を希望した場合であっても、プロダクション等の裁量により、1回だけ契約を延長できると定められている場合もあります。この条項では、当初の契約期間と同じ期間だけ延長できると定められている場合が多いのですが、仮に5年契約の契約書であった場合には、この契約書にサインしてしまえば、延長分と併せて10年間は契約を終了させることができません。条件変更もできない場合も多いので、アーティストのアーティスト生命を左右する恐ろしい条項の1つです。

以上のように、契約期間については非常に重要ですので、最低でもその点は確認、交渉をすべきでしょう。

 (2)ポイントその2 商標について

もう1点、注意を要するのは、商標についてです。

プロダクションなどがアーティストと契約する際に、契約書に、バンド名や芸名について商標を取得することに同意するよう求めたり、商標取得の同意書にサインさせたりする場合があります。

仮にプロダクションがバンド名について商標を取得し、バンドがそのプロダクションを円満に離れられれば問題ないですが、仮に少々揉めて事務所を離れた場合には、バンドの活動が制限される可能性があります*6

バンドにとって、バンド名の変更は、今まで積み上げてきたイメージや人気を失いかねないものですから、バンド名やユニット名を自由に利用できるということは極めて重要です。

 したがって、商標に関する事項が契約書に含まれていたり、商標に関する同意書を求められた場合には、安易にサインしないように注意すべきです。

 

 

*1:2013年にEMIがユニバーサルに吸収合併されたことにより、四大メジャーが三大メジャーになりました。

*2:さらに言えば、日本のSMEはソニーの子会社で、米国のSMEとは資本関係がないので、日本のSMEも「ローカルメジャー」と言っていいかもしれません

*3:もちろん、クリエイティヴ面でのアドバンテージがあるということも一因でしょう

*4:契約書を作らない場合もありますが、そのほうがアーティストにとっては契約を解除しやすいのでラッキーです。プロダクションなどの立場からすれば、契約書面を作成しないのではリスクが高すぎるでしょう。

*5:逆に、ライトな育成契約のような場合には、契約期間が1年だけで延長規定がなく、芽がないと判断された場合には、プロダクション側からあっさり契約を終了させられる場合もあります。

*6:バンド活動自体ができなくなるわけではありませんが、グッズ販売という現代のバンド活動に不可欠の活動が制限される可能性があります。